国税庁がマークしていた「インボイス制度」導入前の脱税スキーム…年商5,000万円の個人事業主が「2年1ヵ月」で廃業するワケ【元マルサの税理士が解説】

国税庁がマークしていた「インボイス制度」導入前の脱税スキーム…年商5,000万円の個人事業主が「2年1ヵ月」で廃業するワケ【元マルサの税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

映画『マルサの女』で有名になった国税局査察部(通称マルサ)。特定の税務署に設置される「特別調査部門(トクチョウ班)」はその登竜門ですが、トクチョウ班は案内板にも職員録にも記載されない“シークレット部隊”だと、元マルサで税理士兼住職の上田二郎氏はいいます。上田氏が「トクチョウ班」統括官時代の経験から、「消費税法改正」に大きな影響を与えた脱税の事例を解説します。

確定申告直前の「無予告調査」に、パニックのX社

関与税理士「確定申告直前だぞ! 無予告調査とは、けしからん!」

筆者「必要があって調査をしております。ご協力願います」

関与税理士「納期が間に合わなかったら営業妨害で訴えるぞ!」

 

――2月10日の朝、筆者が指揮する個人課税部門「特別調査班(トクチョウ班)」は法人部門と連携し、歯科技工会社(X社)と、8名の歯科技工士の自宅に一斉に踏み込んだ。事前に連絡はしておらず、“無予告”での調査である。

 

X社は、実際は「従業員」である歯科技工士を「個人事業主」に見せかけ、X社が外注費を支払う形にすることで消費税の脱税を図っていたのだった。

 

確定申告直前に無予告で踏み込まれ、しかも、社員のほとんどが自宅で拘束され出勤できない状況に追い込まれたX社は、パニック状態に陥った。代表者も関与税理士も脱税スキームを認めず、「納品の遅れによって相手方に損害賠償請求される可能性がある」と猛烈な抗議の電話をかけてきた。

 

しかし、トクチョウ班が調査した歯科技工士のなかには、「自分の所得として申告しているが、個人事業主の認識はない」と、ダミー申告を認める者もいた。

 

消費税と社会保険料の負担を免れるX社の「仕掛け」

消費税法では、その課税期間の基準期間(個人事業主なら前々年、法人事業者なら前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される。

 

平成23(2011)年の消費税法改正前、個人事業主や資本金1,000万円未満の新規設立法人は、基準期間がないため原則的に開業後2年間は免税事業者になった。しかし、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、前年の1月1日(法人の場合は前事業年度開始の日)から6ヵ月間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者になるように改正した。

 

X社の脱税スキームは、「人件費(給与)は消費税の仕入控除ができないが、外注費なら控除できる」ことを狙っていた。従業員をフリーランスとして独立させ、2年間だけ個人事業主として確定申告をさせる。そして3年目に廃業すると、従業員には消費税の納税義務が生じない。

 

一方、会社は支払った外注費に対する消費税を控除することができ、社会保険料の負担を免れることができるのだ。

 

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