「耐力壁」の代表的な工法とは?
ポイント⑨ 耐力壁のバランスに注意
本来、建物にはさまざまな力がかかっています。建物自体の荷重、家具や人の荷重は、日常的にかかりますし、屋根に雪が積もることによる荷重も相当なものです。これらは、いずれも上から下へという垂直方向の荷重です。これに加えて、地震時の横揺れ、台風など強風時には、横から、すなわち水平方向の荷重がかかります。
垂直方向にかかる力は建物の基礎と柱が支えていますが、水平方向の力に対しては耐力壁が建物を支えることになります。地震に対する耐震性を左右するのは耐力壁なのです。
耐力壁の代表的なものが、軸組工法においては柱と柱の間に斜めに筋交を入れるやり方です。規定のサイズの壁に斜めに筋交を1本入れる「片筋交」、筋交を2本入れる「たすき掛け」の他、構造用合板やMDFなどの面材を柱面に取り付ける面材耐力壁の手法も用いられています。
この場合も、単に筋交を入れたり、構造用合板を貼り付けるのではなく、規定の釘で、決まった場所に、決まった間隔で打つように定められています。その通りに施工が行われないと、耐力壁としての役目を果たしません。
耐力壁には、各種類に応じて「壁倍率」が定められています。この数字が、耐力壁としての強さを意味しています。耐力壁の計算にあたっては、地震に対応するために必要な耐力壁と、強風時の風圧力に対する耐力壁を比較して、長さの長いほうで確認することになります。
【図表】 代表的な耐力壁と強さ
なお、計算式は次のようになっています。
地震時=各階の床面積×壁係数【必要壁量】≦(各耐力壁の実長×壁倍率)の合計【存在壁量】
台風時=各階の外壁見付面積×壁係数【必要壁量】≦(各耐力壁の実長×壁倍率)の合計【存在壁量】
建築基準法に基づくと、実際に配置されている壁量(存在壁量)が、必要壁量を上回っていればよいということになります。しかし、ギリギリで上回ることのリスクについては、前述した通りです。
全体として「バランスよく配置」されていることも重要
建物の強さを表す指標となる住宅性能表示の中にある耐震等級においても、建築基準法レベルの耐震性では、3段階の中のいちばん下(等級1)です。ちなみに、建築基準法の1・25倍の強さが等級2、1・5倍が等級3となっています。
耐力壁は、壁一つひとつの強さだけでなく、全体としてバランスよく配置されていることも重要です。四角形の部屋の場合はコーナーに配置し、上階と下階の耐力壁の位置もそろっていたほうが、揺れからくる力が均等に伝わります。
もし、バランスよく配置していない場合はどうなるのでしょうか。
建物には外から力がかかると、回転しようとする力が働きます。このときに、耐力壁の位置と強さのバランスがとれていないと、ねじれや変形を起こして倒壊につながってしまいます。
もうひとつ知っておきたい言葉に、「偏心率」があります。偏心率とは、強さのバランスがどれくらい偏っているかを数値化したものです。
建物の重さのバランスがとれる位置=重心と、外からの力を受けて回転しようとするときの中心=剛心。この2つの位置が離れているほど、回転しようとする力が大きくなり、揺れが大きくなるバランスの悪い建物だといえます。
現在の建築基準法では、木造住宅では偏心率が0・3以下であるように規定されています。しかし、それでは想定外の揺れに対応できません。住宅診断を行う専門家としては、0・15以下となるようにしておくことをおすすめしています。