相続発生したが…きょうだいの1人が「行方不明」の状態に
生徒:80代の父が亡くなりました。父の遺産は不動産と現預金の合計で、およそ3億円です。相続人は、80代の母と、長男である私、そして二男の弟です。しかし、弟が行方不明で、何年も連絡が取れません。相続手続きをするにあたり、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないと聞いています。相続人が1人足りなかった場合、どうすればいいのでしょうか?
先生:相続手続きの際に必要となる遺産分割協議書は、法定相続人全員が署名して、実印を捺印しなければいけません。印鑑証明書の添付も必要です。だれか1人でも欠けてしまうと、遺産分割協議を行うことができません。なかにはご相談のように、音信不通や行方不明の相続人がいるケースもあり、その場合は大変です。
生徒:音信不通や行方不明の相続人がいる場合は、どうすればいいのでしょう…?
(1)連絡先がわからない場合
先生:いくつかのパターンがあると思います。疎遠になってしまい、住所や連絡先が分からないだけであれば、戸籍の附票を取得して、その相続人の住所を調べるとよいでしょう。
生徒:「戸籍の附票」とはどのようなものでしょうか?
先生:戸籍の附票というのは、本籍地の市区町村において戸籍と一緒に作成されるもので、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録されています。法定相続人であれば他の法定相続人の戸籍の附票を取得することが可能です。戸籍の附票を取って住所を見つけ、手紙を出すか、直接現地を訪問すればよいでしょう。
(2)連絡しても返事が来ない場合
生徒:連絡しても返事が来ない場合はどうすればいいですか?
先生:その場合、最初は弁護士を代理人として内容証明郵便を送り、話し合う余地があるかどうか探ってみることです。それでダメなら、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。調停を申し立てると、家庭裁判所から呼び出し状が送られるので、会ってもらえる可能性が高まります。
(3)連絡先に住んでいなかった場合
生徒:戸籍の附票に記載された住所に連絡しても、そこに住んでいなかった場合はどうすればよいでしょう? どこで暮らしているかもわからず、連絡手段もないようなケースもあると思います。
先生:そうですね。そのような場合、相続人が家庭裁判所に対して「不在者財産管理人」選任の申立てを行います。不在者財産管理人が選任されると、どこに行ったのかわからない相続人の代理人となり、家庭裁判所の許可のもとで遺産分割協議を行うことができます。ただし、不在者財産管理人や家庭裁判所は、必ず法定相続分以上を取得する内容でなければ合意しませんので、注意が必要です。
「失踪宣告の申立て」という方法もある
生徒:行方がわからない人が相続財産を取得するのですか…。不在者財産管理人の申立てを行わない方法はありませんか?
先生:7年間以上にわたって行方不明の場合には、家庭裁判所に「失踪宣告の申立て」をすることにします。失踪宣告というのは、不在者の生死が7年間不明であるときに、家庭裁判所の審判によって法律上死亡したものとみなされる制度です。この法律的で死亡したとみなされることを「死亡擬制(しぼうぎせい)」といいます。
たとえば、不動産の所有者であるAが死亡し、その法定相続人が、配偶者であるB、長男のC、二男のDの3人ですが、二男であるDが行方不明だったとしましょう。
二男Dに配偶者や子どもがいない場合、二男Dが失踪宣告されて死亡したことになると、二男Dの相続も発生します。その場合、Dの法定相続人はDの直系尊属である妻Bだけになります。つまり、Aの相続人である二男Dの立場を妻Bが引き継いだことになるのです。そうなるとAの相続については妻Bと長男Cの2人で遺産分割協議を行うことが可能になります。
先生:その場合、失踪宣告された人に子どもがいると、相続人が増えてしまうのでしょうか?
先生:先ほどの事例で、二男Dに配偶者や子どもがいる場合、二男Dの失踪宣告が行われると二男Dの法定相続人は配偶者と子どもになります。そうなるとAの相続人である二男Dの立場を配偶者と子どもが引き継いだことになるので、Aの相続については、妻B、長男Cだけでなく、二男Dの配偶者と子どもを合わせて4人で遺産分割協議を行わなければなりません。
生徒:それは悩ましいですね。行方不明で連絡が取れない相続人がいた場合、不在者財産管理と失踪宣告のどちらを選ぶべきなのでしょうか。
先生:生きていることが間違いない場合や、行方不明になってから7年たっていない場合、不在者財産管理制度によることになります。7年たっても行方不明となっていれば、失踪宣告の申立てを行うしかありませんね。
遺産分割を行わずに手続きを進める方法
生徒:遺産分割協議書がなくても、相続手続きをやってしまうことはできませんか?
先生:法定相続分どおりに相続登記する場合は、遺産分割協議書が要りません。先ほどの事例を使えば、不動産の所有者であるAが死亡し、その法定相続人が妻B、長男C、二男Dの3人で二男Dが行方不明だったとします。この場合、Dが行方不明のままでは遺産分割協議を行うことはできませんが、法定相続分どおりに取得するのであれば、相続登記することが可能です。
生徒:法定相続分というのは、妻Bが4分の2、長男Cが4分の1、二男Dが4分の1ですね?
先生:そうですね。それと同じ持分で不動産を共有すれば相続登記が可能です。この相続登記は、共有物の保存行為に該当するため、妻B、長男C、二男Dのいずれか1人が代表して登記申請をすることができるからです。ただし、この方法を使って相続登記ができたとしても、Dが行方不明のままでは売却することができませんから、問題を先送りするだけのテクニックとなります。
生徒:売却できないのであれば意味がありませんね。不在者財産管理制度か失踪宣告のいずれかを考えないといけませんね…。
岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
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