睡眠に問題のある社員の改善事例:睡眠時無呼吸症候群を放置した社員の生涯年収減少は5,000万円相当?
ここで、私が産業医として経験した、睡眠時無呼吸症候群の事例を2つご紹介します。
事例① 50代男性、某有名企業取締役のAさん
Aさんは50代男性、健康経営銘柄企業として有名な某企業の取締役です。ある日、役員会で居眠りをしてしまい、社長から強く叱責されたAさんは、それを機に周囲からメンタル不調を疑われ、私が産業医面談を担当しました。
一般に、50代の男性の10人に1人程度は睡眠時無呼吸症候群が疑われます。Aさんのように勤務中の居眠りが原因で相談にいらした社員は、まず全体の体格から下顎の骨格、首まわりの贅肉の付き具合などを見たうえで、飲酒ほか生活習慣を聴取します。
Aさんは問診の受け答えの様子から本質的なメンタル不調はないと判断され、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われたため、詳しい検査を勧めました。
Aさんはすぐ病院を受診し、1時間に50回の呼吸停止を認めるほどの重度の睡眠時無呼吸症候群、と診断されました。前述のCPAP療法(就寝時に鼻マスクを装着し、無呼吸を解消する治療法)を始めたところ、2ヵ月後の面談時には症状がかなり改善しました。夜はぐっすり眠れて、日中はクリアな思考で働けるようになったとのことです。
Aさんは売上高数千億円の、しかも健康経営分野で非常に有名な企業の役員でしたので、産業医としてプレゼンティーイズム解消のお手伝いができ、大変嬉しく感じたケースでした。
事例② 20代後半男性、システムエンジニアのBさん
睡眠時無呼吸症候群の治療に結びつかなかった事例もご紹介します。20代後半の男性社員Bさんは、上場企業の子会社で客先常駐型のシステムエンジニアとして働いていました。
Bさんは業務中の居眠りが常態化しており、上長から何度指摘されても改善しないため、産業医面談が設定されました。Bさんの体型から一見して睡眠時無呼吸症候群が疑われ、かつメンタル不調はなさそうでしたので、無呼吸の検査を勧めましたが、本人はなかなか決断できない様子でした。
検査はもちろん健康保険が使えますし、痛みなどの苦痛を伴うものでもありません。3ヵ月のあいだ産業医面談を繰り返したものの、受診する様子がないので、ついに私はBさんに、生涯賃金の観点から話をしました。
Bさんのような大卒エンジニアの場合、当該企業での生涯賃金は2.5億円と推定されます。しかし、この睡眠時無呼吸症候群が原因で居眠りが常態化したままでは、同僚から信頼してもらえず、上司からも評価されず、スキルアップや昇格の機会にも恵まれなくなることでしょう。
また、もし将来会社がリストラを検討する際には、Bさんが候補に挙げられるリスクもあります。そうなると、生涯賃金は1〜2割は下がるものと推測されます。つまり、無呼吸症候群を放置したままだと、Bさんの生涯賃金は3,000万円から5,000万円ほど、少なくなる可能性があるのです。
それをお伝えした時、Bさんは一瞬顔色を変えましたが、残念なことに受診することはありませんでした。数年後、Bさんは自己都合退職になったと聞き、産業医として忸怩たる思いでした。
睡眠時無呼吸症候群はきちんと治療を受ければ、著しく生活の質の改善が期待できる疾患です。日中の居眠りは、一見周囲からは「甘え」や「自己管理能力が低い」と見なされがちですが、健康に問題がある場合があります。適切に治療することで、その人が本来もつ能力を十分に発揮することができるはずです。
企業にできる睡眠支援策は、環境要因と個人要因に分けられる。ポジティブに見える環境変化でもストレスとなる可能性が
では、企業が従業員に提供できる睡眠支援策にはどういったものがあるでしょうか。睡眠に影響を与える要因は、環境要因と個人要因に分けて考えることができます。
環境要因とは、寝具や照明、室温などの睡眠環境に加え、長時間残業などのハードワークや、職場の人間関係といった職場環境などが挙げられます。そのほか、結婚や昇進、自宅の購入などいわゆるポジティブなライフイベントであっても、実は生活環境が変わること自体がストレスとなり睡眠障害に陥るケースもあります。
個人要因とは、自律神経やホルモンバランスの乱れなど身体機能に加え、飲酒や運動といった生活習慣などが挙げられます。
このように睡眠障害にはさまざまな要因があるため、個々人が置かれてる状況によって改善できるところから変えていく、多面的なアプローチを取ることが重要です。環境の調整が可能であれば、まずは試してみることが推奨されます。それが難しい場合は個人要因に目を向けたり、薬物療法を試したり、生活習慣を変えるカウンセリングを受けたりなども有効でしょう。
企業が社員のためにできる睡眠改善の施策としては、たとえば残業制限や勤務間インターバル(※2)を設ける、という方法があります。他にはヘルスリテラシーの向上施策として睡眠セミナーで睡眠教育を実施するといったものもあります。
(※2 勤務間インターバル……1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く人の生活時間や睡眠時間を確保するもの)
社員が仮眠を取れるよう休憩室を設置している企業もあります。さらに産業医面談や保健師による健康相談窓口を設けることで、気軽に相談できる環境をつくることも有効です。近年では、睡眠支援に特化した相談窓口サービスや、企業がオンライン診療の受診を補助する福利厚生サービスなども普及しつつあります。
まとめ
「眠い」「ダルい」は個人の甘えと捉えられることが多いのですが、その奥に睡眠に関する健康課題が隠れている場合があること、その健康課題を放置すると、業務のパフォーマンスが下がり、結果生涯賃金が激減する恐れもあることを本稿では解説いたしました。
経営者の方にとって、社員の睡眠障害を改善することは、生産性の向上と労災リスクの軽減を同時に実現できる施策といえます。ぜひ、企業も社員も「眠い」「ダルい」を軽視して放置せず、その背後にある要因に目を向けて欲しいと思います。
吉田 健一
産業医/精神科医
株式会社フェアワーク
代表取締役会⻑
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