「走るのはお嫌い?」「もちろん。大嫌いだ」だが──
運動面でもアプローチは似ている。「スポーツが得意だったことはない。人生で運動したと言えるのは、7年生のときに参加した教会のバスケチームぐらい」 。50歳までに走った距離は、合計で8キロに満たないという。
あるとき、飛行機内で読んだ新聞記事で「走るのはお嫌い?」という見出しを目にした。「もちろん」と彼は思った。「大嫌いだ」 。だがその記事が紹介する28日間の運動プログラムは、とくにたいへんそうには見えなかったので試してみることにした。最初の一週間はジョギングを毎日最大で5分間、2週目には毎日10分、3週目には15分、4週目には20分と増やしていく。4週目のころには、「どうやら習慣と呼べるレベルになってきた」そうだ。
5年を過ぎたいまでも彼は週に5回は走っている。ほとんどの人がベッドでぬくぬくしている朝の5時半か6時には家を出て、30分で5キロほど走る。「速そうに走っていたとしても、見た目よりずっと遅いよ」。
保険と投資業務をグローバルに展開する金融持ち株会社マーケルの共同CEOとなったゲイナーが、100メートル走の記録をつくることはないだろう。だが、このジョギング習慣(短いヨガと軽めのケトルベル・リフティングで締めくくる)があるからこそ、厳しい仕事が心身に及ぼす日々の負荷にも耐えられる。
なにせ、約210億米ドルの株と債券のほか、100%子会社が19、およそ1万7,000人の社員が彼の管理下にあるのだ。
「重い責任を負う経営幹部や資産運用者(マネーマネジャー)は、一日24時間、週に7日、試合に出場しているようなものだ。オフシーズンどころかオフの日すらない。だからこそ、自分の健康や睡眠、運動に気を配り、ワークライフバランスのことも少しは考え、妻や子どもと過ごす時間や、教会の仲間とのつきあいもたいせつにするように日ごろから心がけないといけない。そうしたからといって、望む結果につながるとはかぎらないが、可能性は高まる」
ゲイナーがほかの人とちがうのは、いつも頑固なほど自身を律しているところだ。たいていの人は、張りきって始めたことでも数日で失速してしまう。私もケトルベルと縄跳び用ロープをもっているが、どちらも3回使っただけでやめてしまった。このふたつを見るたびに、うしろめたい気持ちになる。
だがゲイナーは、完璧ではなくても「正しい方向」へ向かってこつこつと努力を続けることができる。彼によると継続の秘訣は、何をするにせよ「徹底してほどほど」を目指すことだ。
「物事を一気に変えようとすると長続きしない。でも、ゆっくりと少しずつなら、長く続けられる」
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