「1円スマホ」が販売されているしくみ
街中や家電量販店、インターネット上で「1円スマホ」をよく見かけます。最新のiPhone等、10万円を超える高額な機種までも対象になっています。果たして、どのようなしくみになっているのでしょうか。
「1円スマホ」は、大手キャリアの販売代理店だからこそ実現可能なシステムです。スマホ端末と回線契約を「セット販売」して値引きすることによって実現します。
現在、この「セット販売」の値引きには後述するように規制が設けられています。しかし、「1円スマホ」はこの規制にもかかわらず、実現可能なシステムとなっています。どういうことなのか。以下、説明します。
◆2019年以前は「セット販売」の値引きが無制限にできた
2019年9月以前、大手キャリアでは、高額な端末を「1円」等の廉価で販売する代わりに「2年間の契約継続」を条件に回線契約を結ぶということが行われていました。機種代金を1円にすることによるマイナスは、「2年契約縛り」で通信料金によって回収できるということだったのです。これは、スマホ端末と回線契約の両方を扱える大手キャリアならではの「特権」でした。
しかし、2019年10月に改正電気通信事業法が施行され、端末と回線契約とのセット販売の値引きが規制されるようになりました。「通信料金と端末代金の分離」といわれるものです。スマホ端末と回線契約のセット販売であまりに大幅な値引きを認めると、大手キャリアのみが不当に有利になってしまうため、セット販売の場合の値引きを「上限2万2,000円」とする規制が加えられたのです。
◆規制後も販売代理店は「独自の値引き」で「1円スマホ」を実現
ところが、このルールには「抜け穴」がありました。「値引き上限2万2,000円」のルールはあくまでも、スマホ端末と回線契約の「セット販売」のみを規制するものです。販売代理店がスマホ端末について独自に行う割引は規制されていません。
そこで、販売代理店が予め独自にスマホ端末の価格を値引きしておいてから、回線契約とのセット販売の「2万2,000円の値引き」を行うという方法がとられるようになりました。現在の「1円スマホ」はこの方法によるものです。
もちろん、この方法だと販売代理店は「赤字」になります。しかし、契約件数を伸ばせばキャリアから「奨励金」等を受け取れるので、それで、赤字分をカバーしてきたという実態がありました。
「1円スマホ」の何が問題か
このしくみがフェアかどうかはさておき、一般消費者の立場からは、一見、このしくみはメリットが大きいように感じられます。しかし、結局、そのツケは一般消費者に回されることになりかねません。
すなわち、公正取引委員会が2023年2月24日に公表した「携帯電話端末の廉価販売に関する緊急実態調査」の報告書においては、以下の問題点が指摘されていました。
・SIMフリー端末等の販売事業者の競争力を奪う
・値引き分が通信料に転嫁される
それぞれ、どういうことか説明します。
◆問題点1|SIMフリー端末等の販売事業者の競争力を奪う
第一に、SIMフリー端末の販売事業者や、中古端末の販売事業者の競争力を奪ってしまうという問題が挙げられます。
SIMフリー端末・中古端末の販売事業者は、大手キャリアと異なり、回線契約とのセット販売による値引きをすることができません。したがって、大手キャリアないし販売代理店が「2万2,000円ルール」を潜脱して「1円スマホ」の販売を続ける限り、競争上不利な立場に置かれることになります。結果として、端末販売の市場が育たず事実上大手キャリアの「寡占」となり、一般消費者の利益が害されることになります。
◆問題点2|値引き分が通信料に転嫁される
第二の問題は、値引き分が通信料に転嫁されるということです。前述のように、販売代理店は、「スマホ端末と回線契約のセット販売」の前にスマホ端末について独自の値引きを行うと、契約獲得件数が多くなるほど「赤字」になってしまいます。
そして、その分はキャリアからの「奨励金」等でカバーすることになります。そのお金の出所は、究極的には、キャリアが顧客から受け取る通信料収入です。値引き分が通信料に転嫁されることになるので、通信料は下がりにくくなります。それどころか、通信料が引き上げられる可能性すらあるということです。
このように、現在の「1円スマホ」のしくみは、巡り巡って、一般消費者の不利益につながる可能性があり、そのことを公正取引委員会・総務省は問題視しているということです。