(※写真はイメージです/PIXTA)

年間110万円の贈与の非課税枠を利用した相続対策……耳にしたことがある人も多いでしょう。本来有効な相続対策となるはずですが、正しい知識のもと実行しなければ、あとから税務調査で指摘を受けるケースも……。具体的にはどのようなケースでしょうか。本記事では、Aさんの事例とともに生前贈与の注意点について、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。

贈与のつもりでも…勝手に110万円を引き出すことの問題点

多くの方が耳にしたことのある、年間110万円の贈与の非課税枠。Aさんの事例について、問題点を整理します。まず、今回のケースの場合、気になる論点は、大きく下記の2点が挙げられます。

 

1.現金引き出しであること

2.母親に確認をとっていないこと

 

問題点1:現金引き出し

まず、現金での贈与は問題ないかという点について、説明していきます。

 

今回のケースでは現金の引き出しのみで、なにに使ったのか、贈与だとしたら誰に贈与したのか、証明することができません。贈与契約書があれば、まだよいのですが、それもないとなると、そもそも贈与があったのかということも証明できません。

 

また、たとえ贈与契約書があったとしても現金の引き出しがその贈与に該当するのかどうかを証明することも困難です。税務調査で「本当に契約書のとおりにお金のやり取りをしたのか」と疑われる余地がでてきますし、それに対して証明するものがなにもありません。税務調査の備えとして、しっかり証明できる形で贈与をする必要があるのです。

 

ここで疑問に思う方もいらっしゃると思います。

 

通帳から引き出したお金について、税務署はなぜわかるのか――。

 

税務調査があった場合、税務署は本人の承諾がなくても預金口座を調査でき、本人だけでなく、家族の口座も調査対象になることもあります。金融機関は過去10年分の入出金データを保存していることが多いため、税務署は過去まで遡って確認することが可能です。

 

また国税庁や税務署では、納税者情報を管理しており、そこには給与や確定申告のデータが登録されているため、そこに記録されている所得状況と預金の状況を照らし合わせて調査をします。

 

税務署は専用のシステムによって、過去10年間分の収入や通帳等の財産を把握することができます。このシステムは国税総合管理システム(KSK)と言われています。国税庁や税務署では、これにより納税者情報を管理しており、そこには給与や確定申告のデータが登録されているため、そこに記録されている所得状況と預金の状況を照らし合わせて調査をします。

 

これらと照らし合わせて、なくなっている預金の使い道を調査してくことになります。これまでの蓄積された過去データがあるので、相続税の申告をすべき人がしていないと税務調査の対象やお尋ねの対象になることがありますし、膨大なデータをもとに照らし合わせることにより高確率で発覚します。これらのことから不自然な預金の動きがあれば、一目でわかってしまうのです。

 

今回のように母親の口座から現金が引き出されていたとすると、税務署はこの引き出したお金について「使途不明金」として調査することになります。

 

・なんのために支出したのか

・現金として残っているのではないか

・誰かに渡しているのではないか

 

いろいろな可能性を考えて調査することになります。そのときにもし母親が亡くなっておらず、「Aさんに贈与をした」と説明したとしても、それについて証明するものはなにもないという状態になります。そのため、ほかに引き出したお金があればそれも贈与ではないかと疑われてしまう可能性もあります。そしてそれが贈与ではないという証明も困難です。

 

これらは、贈与から数年経過したあと、特に相続発生のタイミング等で問題になることも少なくありませんので、贈与をするのであれば日ごろから証明可能な方法で進めることがなにより安心です。

 

問題点2:母親に確認をとっていない

そもそも贈与とは、贈与を受ける側も了承を得ていることがポイントになりますので、本人が知らない、了承を得ていないとなれば、その贈与は無効になります。今回のケースですと、母親は知らない状態で贈与が進められているので、一体いつ、なにを贈与したのかということが明らかになっていません。そもそも贈与があったことが証明できていないことになります。

 

贈与とは両者の合意があって初めて成立するものです。当事者が関知していない状態では贈与とみなされないため、引き出したお金は贈与ではなくただ引き出しただけとみなされます。支出したことが証明できないとなると現金で存在しているとみなされて相続があったときは相続財産に含められてしまう可能性もあります。

 

このとき、仮に、口頭で本人が承諾したとしてもそれを証明するものがなにもありません。もしそれが今回の事例のように相続税の税務調査となれば、本人は亡くなっているため、証明することが不可能な状態になってしまうのです。

 

これらの観点から、証明できるような形で贈与を進めていくことの必要性をおわかりいただけたかと思います。

 

まず必要なのは「本人が承諾している証拠として、贈与契約書を作成してそれぞれが管理している印鑑で押印して、それぞれが保管しておく」ということです。誰から誰にということが明白になるようにするのは口座から口座へ移動させることでいつ、いくらの贈与があったかということは証明できるので現金よりも口座のほうがずっと好ましいです。

 

もし、どうしても現金でないといけない事情がある場合には、書面で受け取ったことを記録し、その日に本人の口座に入金しておくなど、説明がしやすい形での贈与をする工夫が必要です。相続対策は家族同士ではなかなか話を進めることが難しいことも多くあると思います。

 

しかし、もっとよりよい相続対策をすることができることもあります。家族の大切な想いが苦い思い出になることがないように、大切に思うからこそ、正しい対策を進めていきましょう。

 

 

木戸 真智子

税理士事務所エールパートナー

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー

 

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