決して他人ごとではない…増加する「所有者不明の土地」が日本を揺るがす大問題となるワケ【中央大学法学部教授が解説】

決して他人ごとではない…増加する「所有者不明の土地」が日本を揺るがす大問題となるワケ【中央大学法学部教授が解説】

いま日本では、所有者不明の土地が増加しています。「そんなの放っておけばいいじゃないか」と思ってしまうかもしれませんが、実は日本人の誰にとっても決して他人事ではないと、中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏はいいます。本記事では同氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、所有者不明の土地問題について解説します。

日本の不動産登記制度

では、なぜ、所有者不明土地が発生してしまうのでしょうか。一番大きな原因は、日本の不動産登記制度にあるといわれています。

 

そもそも、現在の不動産登記制度の制定は、明治初期の地租改正事業までさかのぼります。当時は、誰に対していくら課税するのかを決定するための基礎情報として活用されていました。

 

しかし時間の経過とともに、私有不動産の公示機能をも果たすようになりました。つまり、登記を見れば、誰がこの不動産の所有者なのかなどが、世間から見て分かるような仕組みとなっています。

 

しかし、とりわけ相続の際に、ちゃんと次世代への移転登記がなされないまま放置されてしまう例が後を絶ちません。相続の際に移転登記がなされない理由はさまざまです。相続人の間で遺産分割の話し合いがうまくいかず、協議が長期化する場合もありますし、また、都心で暮らしている相続人にとって、田舎の土地を相続しても、所有権を取得した意識が希薄なのかもしれません。

 

それに加え、今までの日本の制度では、不動産の所有権移転登記をすることは、義務ではなく権利にすぎませんでした。ですから、不動産の市場価値が低ければ低いほど、移転登記のための費用(登録免許税や司法書士への委託手数料など)を考えると、相続人が移転登記をすることに対するモチベーションが湧きません。

 

そのまま時間が経過してしまい、世代交代、また、世代交代となるうちに、最終的に、誰が現在の所有者なのか分からなくなってしまう(調べようと思っても、調べられなくなってしまう)という事態が発生するのです。

 

このような状況を政府も問題視しています。2018年、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が制定されました。この法律の中には、所有者不明土地を対象として、一定の手続を経たうえで最長10年間、利用権を設定し、公益目的の施設(公園や文化施設など)に利用できる制度が盛り込まれており、土地の有効活用の1つとして期待されます。

 

また、2021年には、「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が制定されました。ここではまず、所有者不明土地が発生するのを防止するたび、不動産を取得した相続人に対して、その取得を知った時から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付けることとなりました(2024年4月1日施行)。

 

今まで、移転登記は権利にしかすぎなかったわけですが、その発想を大きく転換したものといえます。また、相続登記の義務化の実効性が確保できるよう、登記手続の負担軽減、登録免許税の負担軽減、登記漏れ防止のための所有不動産記録証明制度などもパッケージで盛り込まれました。

 

さらに、相続などによって土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度も新設されました(2023年4月27日施行)。今まで以上に、土地を手放しやすくして、有効活用を目指すものといえます。

 

 

遠藤 研一郎

中央大学法学部

教授

 

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