医師の労働時間
次に、医師の労働時間を見てみましょう。[図表4]は厚生労働省が2022年に実施した医師の勤務実態調査において、病院・常勤勤務医の時間外・休日労働時間を週労働時間区分と割合で集計したものです。
時間外・休日労働時間が年960時間を超える医師の割合は全体の21.2%、年1,920時間を超える医師の割合は3.7%となっており、長時間労働が課題となっています。ちなみに、残業時間が週20時間(年換算960時間程度)を超えると過労死認定基準に達します。
医師は高度な知識・技術が要求される専門職であるうえ、人の生命と健康を預かる重大な職責を負っています。さらに、労働時間も長くなりがちであることを考慮すると、報酬はそれに見合ったものであることが求められます。
「診療報酬」と「医師の給与」は違う
最後に、診療報酬と医師の給与の違いについても、説明しておきます。
診療報酬とは、保険医療機関・保険薬局が、保険医療サービスに対する対価として保険者から受け取る報酬です。厚生労働省によれば、診療報酬は以下の2つの評価を基に、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえて決定します。診療報酬の増減が直ちに医師の給与に反映されるわけではありません。
・技術・サービスの評価
・物の価格評価(医薬品の価格は「薬価基準」で定められる)
また、財政審議会の分科会(11月1日)の資料によれば、診療所の診療報酬の引き下げを提言している理由は、診療所の収益が過去2年間で12%増加したこと、経常利益率が8.8%と高いこと、利益剰余金が過去2年間で約2割増加したことなどを根拠として、診療所の経営状況が「極めて良好」と判断したからです。
財政審議会はそれに加え、診療報酬の引き下げを行うことによって、「現役世代の保険料負担等の軽減による手取り所得を確保する」とも指摘しています。診療報酬を抑えることで、社会保険料の負担を抑えるという目的もあるということです。
つまり、財政審議会は、医師の給与を適正な水準で維持しなければならないことを前提として、なお、診療所に余剰収益が発生しているので、その分について診療報酬の引き下げを行うことにより、国民の社会保険料の負担を軽減すべきという前提に立っているといえます。
ただし、現状の医師の給与が本当に適正な水準に達しているかどうかは、改めて議論をする必要があります。
また、仮に引き下げるのが相当ということになったとしても、診療報酬の引き下げ幅によっては、結果的に、医師の給与を適正水準より下に引き下げざるを得なくなってしまう可能性も考えられます。しかも、個人経営の開業医の場合、報酬に相当する額以外に様々な費用を捻出しなければなりませんが、それさえままならなくなってしまう可能性も考えられます。
もし、これらの実態を踏まえずに診療報酬を大きく引き下げてしまえば、医師をはじめとして医療の担い手がいなくなり、医療崩壊を招くおそれがあります。
医師の給与のあり方については、様々な考え方がありますが、医師が実際に担っている重大な役割と社会的責務、ハードな労働環境の実態を踏まえたうえで、なおかつ、医療費の増大の問題にも目配りし、適正な水準であるかということが大切であるといえます。
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