(※写真はイメージです/PIXTA)

生活の利便性や、将来の相続対策を考慮し、シニアになってからタワーマンションを購するご夫婦が増えています。その際、結婚生活20年以上の夫婦が活用できる「夫婦間住宅取得資金贈与」という制度の活用により節税できる可能性がありますが、条件等をよく考慮することも必要です。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

将来の相続を見据え、タワマンを購入したいが…

 相談内容 

 

横浜市在住の60代夫婦です。

 

長らく夫の実家の敷地内の家に住んでいましたが、夫の実家の相続が終わったのを機に、自宅として新たに横浜市内のマンションを購入することになりました。

 

相続対策も考え、広めのタワーマンションを検討しています。

 

夫は会社を経営しており、すでにほかの不動産や金融資産などで、2億円程度の資産があります。私は子育てに専念していた専業主婦が長かったため、財産らしい財産は亡父から相続した2,000万円程度の預貯金のみです。子どもは3人ですが、独身の長男と同居しています。

 

不動産の購入にあたり、将来の相続対策として有用なことはあるでしょうか?

新規住宅購入にも「夫婦間住宅取得資金贈与」が使える

 回 答 

 

「夫婦間住宅取得資金贈与(結婚してから20年経過した夫婦の間での2,000万円までの非課税贈与)」は、「居住用不動産の夫婦間の贈与における配偶者控除」のほか、マンションや戸建てなどの住宅購入の資金について、適応することが可能です(『人生100年時代の節税対策…「贈与税の配偶者控除」活用に際しての落とし穴』参照)。

 

この制度が活用できるケースについて、詳しく見ていきましょう。

 

①自宅評価2,110万円以下で、夫の生前に妻へ確実に自宅を残したい場合

自宅の土地路線価評価と建物の固定資産税評価額を合算しても2,110万円を超えない場合、不動産登記において課される「登録免許税」を支払っても贈与を行うケースがあります。

 

都内や川崎市、横浜市などの戸建てではあまりないかもしれませんが、狭小地の住宅や、築年数が経過した区分所有のマンションなどでは、該当することも少なくはありません。

 

すべての財産を残すのならば、相続時に残したほうが税金面で効果的ですので、公正証書遺言を作成したほうが、効率がいいかと思います。ただ、遺言書については死後にしか効力を発生しませんので、「自分の目の黒いうちに自宅だけは妻にどうしても残したい、名義を変えたい」というご希望をお持ちのご夫婦もいらっしゃいます。

 

この場合、何よりご夫婦の思いや、それぞれの満足感などのメリットがあるかと思います。税金面や費用面だけの話ではありませんので、利用を一考する価値のあるケースと思われます。

 

②新しい「自宅購入資金」に使う場合

冒頭の質問のように、富裕層の方は、老後の終の棲家としてタワーマンションを購入されるなどのケースも増えています。

 

広い郊外の一軒家より、駅直結のタワーマンションの方が利便性も高いですし、車の運転も不要です。また、最近のタワーマンションでは、スーパーや医療・介護の施設などが併設されているものも多く、狭い行動範囲で生活が送れるため人気が高いのです。

 

「新しい自宅購入資金」にも、この「夫婦間住宅取得資金贈与(夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除)」を使うことが可能です。

 

質問のように、夫は2億程度の財産があり、妻は2,000万円程度の預貯金のみの場合で、購入価格1億円程度のタワーマンションを購入するケースを想定します。

 

このケースでマンションを購入した場合、住宅の購入資金として「金銭を妻に2,000万円を贈与して」購入しても、きちんと申告を行えば贈与税は非課税となるため、登記記録は下記のようになります。

 

●夫の持分は10分の8(1億分の8000万)

●妻の持分は10分の2(1億分の2000万)

※ 夫から贈与を受けた持分をそのまま購入代金に充当、諸経費は考慮せず。

 

この場合、注意すべき点は、持分を出金の割合に応じて「正確に登記」しておくことです。金額を正確に疎明するために、登記をする際には、持分割合の分母を1000単位や1万の単位にすることもあります。不動産の購入時において、共有持分の割合は極めて重要で、司法書士はとても気を使います。登記簿の記録は誰もが閲覧できますし、税務署としても極めて重要視する点です。

 

今回は「夫→妻」に対しての2,000万円のお金の流れが説明でき、これをかつ無税の贈与という形で移せます。2,000万円以上の夫の財産を妻に生前に贈与税無しに移せますし、そもそも今回のケースでは、妻は自分の固有の財産に不動産の持ち分を加算したとしても、相続税の基礎控除額を下回る可能性が高いです。

 

夫の死亡時の相続財産を勘案していませんので不確定ですが、妻の財産額もこのままならば、妻死亡時には相続税の申告も不要です。

 

今回のケースの場合、すでに相談者様の夫は、相続税の配偶者控除の上限である1億6,000万円を超える額の財産を持っていますし、この財産の一部の2,000万円あまりを夫から妻に無税で移せますので、相続税の相続対策にもなるでしょう。

 

また、そもそも購入時に金額の割合で直接登記を入れるため、すでに所有している自宅不動産を夫婦間で贈与登記をする「登録免許税(30万円程度)」もかかりませんので、この制度を使う効果は高く、効率的といえます。

 

もちろん『人生100年時代の節税対策…「贈与税の配偶者控除」活用に際しての落とし穴』でも解説したような、夫婦の共有不動産となってしまうリスクや、相続登記もそれぞれに必要という手間はかかりますが、購入資金に充てる場合はメリットも大きいため、こうしたデメリットを上回ると感じる方も多いでしょう。

 

今回は詳細を省きますが、もし認知症のリスクが心配ならば、「家族信託」などの手法で信託財産として登記をする手法も可能ですし、子どもなどの一部と不仲などで遺産分割協議にリスクがあるのなら、夫婦それぞれで遺言を残せばすむことです。

 

またそもそもタワーマンションの場合、現状では「市価」と「相続税評価額」の剥離も大きいため、この時点で相続財産の圧縮という意味で、節税効果を享受しているともいえます。

 

ただこれも直近の最高裁判例で、マンション一棟を購入して路線価と実売価格との差を利用した著しい節税対策について、これを否認する判決も出ていますので過度な節税への期待だけで購入するのもどうかと思われます。

 

以上、「居住用不動産の夫婦間の贈与における配偶者控除」について、解説をしてみました。

 

いうまでもないことですが、将来的に発生する相続や、生活状況による財産の変化まで、すべてを完全に予測することは不可能なため、単純な損得や割り切れない面もあります。

 

実際、この制度を使われる方は、少なくとも20年以上婚姻関係を続けた夫婦しかありえませんので、節税などの側面以外にも、夫婦間の思い入れなどの影響も強いように思います。

 

ただし、登記の税金費用や、将来的な相続税などに与える影響もあるため、この制度の利用をお考えの方は、身近にいる相続に詳しい司法書士や税理士に相談された方がいいかと思います。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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本記事は、司法書士法人 近藤事務所が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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