「借金が返せなくなったら、わが社の工場を売却していただいて構いません」経営者に一筆書かせる…銀行のビジネスのキホン

「借金が返せなくなったら、わが社の工場を売却していただいて構いません」経営者に一筆書かせる…銀行のビジネスのキホン
(※写真はイメージです/PIXTA)

企業は銀行から融資を受けてビジネスを展開し、銀行は企業へ融資することで収益を得ます。お互いになくてはならない関係とはいえ、銀行側は貸倒れとなっては大変なので、リスク回避のためにさまざまな対策を立てています。元メガバンカーの経済評論家の塚崎公義氏が、実情を平易に解説します。

銀行貸出の基本…「担保」「保証」を求め、確実な回収を目指す

銀行は、預金者から預かった金を貸し、貸出金利と預金金利の差額を得ることを本業としています。その際、貸出金利をそれほど高くせず、その代わり確実に返済してもらえる先に絞って融資をするのが大原則です。

 

消費者金融は、銀行と同様に金を貸して金利を受け取ることが本業ですが、発想が大きく異なっています。返済能力の高くなさそうな人にも金を貸しますが、高い金利を要求するのです。「一部の借り手が返済できなくても、ほかの借り手から高い金利が得られれば、結果として利益が得られるはずだ」という考え方です。

 

銀行は、貸出に際して借り手の返済能力をしっかり調べますが、それでも借り手が返済できなくなる可能性は残ります。一流企業でも倒産するかもしれませんし、一流企業の正社員でも体を壊して働けなくなるかもしれません。

 

そうした不測の事態に備え、銀行の損失を抑える仕組みとして「担保」や「保証」を借り手に要求する場合も多いのです。

取った銀行だけ得をする! 担保は「パイの奪い合い」

借り手が借金を返せないという場合、「財産を全部売っても借金の金額より少ない」というわけですから、「すべての貸し手に借金を半分だけ返します」といった解決が普通でしょう。

 

しかし、銀行としては、「ほかの貸し手に金を返さず、わが銀行だけに金を全額返してほしい」と考えます。借り手が返せなくなってからでは遅いのですが、金を貸すときにそういう約束をしておければ銀行は安心ですね。

 

その手段として、担保という制度があります。「わが社が借金を返せなくなったら、銀行にわが社の工場を売っていただいて構いません」といった一文を借用証書に加えてもらうのです。これを「工場を担保に金を貸す」といいます。個人の住宅ローンの場合も同様に、自宅を担保に金を貸すわけです。

 

銀行が工場を担保に取ったとしても、借り手が返せる金額が増えるわけではありませんから、担保に取った銀行が得したぶんだけほかの銀行が損をする、「パイの奪い合い」が行われるわけです。

 

問題は、借り手が複数の銀行と同じ約束をする可能性があることです。借り手が借金を返せなくなったときに、銀行が「約束どおり御社の工場を売るよ」といいに行ったら、ほかの銀行が先に売ってしまっていた、といったことが起きては大変ですから。

 

そうした事態を防ぐために「登記」という制度があります。土地や建物に関しては、誰が持っているのかを記した「登記簿」という帳面が役所に備えてあり、そこには「誰が持っているのか」のほかに「誰の担保になっているのか」が書いてあります。

 

A銀行が金を貸すときに工場を担保にとるとすれば、工場の登記簿に「この工場は借り手が所有しているが、借り手が借金を返せない場合にはA銀行が勝手に売ってよいことになっている」と書いてもらうのです。

 

そうなると、B銀行がその工場を担保に取ることができなくなります。B銀行がその工場を担保にとったとしても、勝手に売ったらA銀行から訴えられて負けてしまう(売った代金をA銀行に渡さなければならない)からです。

 

つまり、銀行が工場を担保に取ろうと考えた場合には、登記簿を見てほかの銀行の担保になっていないかチェックする必要があるのです。

一方、保証は「パイが大きくなる」話

銀行は貸出に際し、借り手以外からの保証を要求する場合もあります。子会社の借り入れに際して親会社が「借り手が返済できない場合は、わが社が代わりに返済します」と約束するのです。

 

親会社が銀行から借りて子会社に貸す、ということも可能なのでしょうが、子会社が親会社の保証を条件に銀行から借りている場合が多いようです。

 

保証は、銀行間のパイの奪い合いではなく、パイが大きくなる話なので、登記をしたりする必要はありません。A銀行が借り手の親会社から保証してもらったとしても、B銀行が損をすることはないからです。

チャレンジャーなオーナー社長、銀行がけん制する方法は…

保証に関して興味深いのは、オーナー社長(会社の発行している株をほとんど持っている人)が会社の借金の保証人となるケースが多いことです。銀行としては、会社が借金を返せないならオーナー社長に返してもらいたい、と考えるわけですが、法律上それはできないのです。

 

会社が借金を返せないとき、銀行は株主に返済を要求してはいけない、というのが株式会社に関する法律の定めだからです。これは、株主有限責任の原則と呼ばれています。

 

そこで銀行は、オーナー社長に保証人になってもらおうと考えます。社長としてはイヤなのですが、「保証人にならないと会社が金を借りられず、会社が儲けることができず、自分が配当をもらえない」ことになるので、仕方なく保証人になる場合も多いようです。

 

銀行が社長に保証人を頼む理由がもうひとつあります。資本が50、銀行借入が50の会社のオーナー社長は「100が2倍になるかゼロになるかの賭け」を好みます。成功すれば自分の財産が50から150に増えますが、失敗しても50が消えるだけですから。しかし、銀行としてはそんな賭けはしてほしくありません。そこで、「賭けに負けたらあなたの個人財産も減るよ?」といって社長が賭けをしないようにけん制するのです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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