【世界標準の外】日本企業「原則として終身雇用」「メインバンク&下請けとの深いつながり」…特殊な習慣を継続する納得の事情

【世界標準の外】日本企業「原則として終身雇用」「メインバンク&下請けとの深いつながり」…特殊な習慣を継続する納得の事情
(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの日本企業は、いまなお終身雇用制度を柱に、メインバンクや下請け企業との深くて長い付き合いを原則とするというビジネススタイルを継続しています。これは外国の企業の取引のやり方と大きくかけ離れていますが、知れば納得の事情があるのです。経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

日本企業は銀行取引も部品購入も長期的取引

日本的経営の根幹は終身雇用です。最近は非正規労働者も増え、正社員も転職したり定年後再雇用になったりしていますが、コアとなるのは終身雇用の正社員です。社員との長期的な関係を重視しているわけです。

 

同様に、日本企業は銀行取引や部品仕入れに関しても、同じ銀行(メインバンクと呼ばれます)や同じ部品会社(下請け企業と呼ばれます)との長期的な関係を大切にしています。

 

米国などでは、銀行取引も部品の仕入れも毎回最も安いところと行なうわけですが、日本で異なる商慣行が続いているのは、それなりに合理性があるからです。

メインバンクは評判を気にして借り手を助ける

日本企業は、多くの場合、借入も預金も為替等の取引も、特定の銀行(メインバンク)と集中的に行ないます。それによりメインバンクは収益の機会を得ているわけです。一方で、メインバンクは借り手が苦境に陥った場合、温かく見守るという「暗黙の了解」をしています。

 

銀行としては、借り手が苦境に陥った場合には一刻も早く借り手に返済を求めるインセンティブを持ちます。仮に借り手が財産を全部売っても借金が返せないような事態に陥れば、先に返済を受けた銀行のほうが損害が小さいからです。

 

しかし、すべての銀行が先を争って返済を要求すれば、借り手が倒産するリスクが格段に高まります。そこで借り手は「暗黙の了解」をしてくれるメインバンクを大切にする、というわけです。

 

メインバンクとしては、借り手が苦境に陥った場合に返済要請をすることも可能ですが、そんなことをすれば借り手に「あの銀行は冷たい。メインバンクなのに真っ先に返済を要求してきた。そのせいで我が社は倒産したのだ」などといわれかねません。そうなれば、ほかの借り手が「あの銀行をメインバンクにしていても頼りにならないから、ほかの銀行にメインバンクを頼もう」と考えて取引先が逃げてしまうでしょう。それが怖いので、メインバンクは「暗黙の了解」を守らざるを得ないのです。

 

もちろん、経営者が放漫経営をしていた結果として会社が傾いた場合などは、見放しても借り手に同情が集まることはないでしょうから、見放す可能性は高いでしょうし、会社の状況があまりに酷ければ、やはり見捨てるしかないでしょう。どの程度で線引きをするかは、他行との「横並び」が意識されるはずです。顧客が他行に逃げるか否かが問題なのですから。

 

余談ですが、筆者は日本が攻められた際に米国が守ってくれると考えています。それは米国が親切な国だからではなく、日本を守らないと他の同盟国が「米国は頼りにならないから米国との同盟関係を断ち切ろう」などと考えかねないからです。

仕入れ先との関係も「長期安定的」

企業は、部品の調達に際しても、毎回入札して最も安い所を選ぶのではなく、下請け企業を決めて長期にわたる安定的な取引を行っています。すぐにわかるメリットは、打ち合わせが不要なことです。「前回どおりで」のひとことで終わりですから。

 

入札の場合には、部品メーカーが品質や納期をしっかり守る誠実な会社か否かの判断が難しいわけですが、継続的な取引ならば安心です。前回不誠実だった会社は下請けを切ればいいだけですし、今後についても「不誠実なことをしたら、将来的に大きな損失になるよ」というプレッシャーをかけることができるからです。

 

部品企業としては、毎回入札だと思い切った設備投資をすることができませんが、下請けに指名されれば「今後も受注が確実なら、思い切って設備投資をしよう」ということになります。その結果として部品の品質が上がり、製造コストが下がれば、発注する企業にもメリットとなるでしょう。

 

余談ですが、筆者は新人研修の講師を頼まれることがあります。毎回入札だとしたら資料を作る手間を考えて応札を見送るかもしれませんが、「今回の研修で評価されれば次回以降も講師の要請が来るだろう」と期待できるならば真面目に資料を作るインセンティブが増します。「今年のコストは高くなるけれども、来年以降も同じ使うことでコストが回収できる可能性が高い」と考えるわけですね。

 

毎回同じ下請けを使うことを前提とするならば、企業は下請け部品メーカーに技術指導をすることが可能になります。これも下請け企業の設備投資と同様に、お互いにとってメリットのある話です。

 

場合によっては、新製品を開発する際に下請け部品メーカーと共同開発が可能かもしれません。そうなれば、試作品ができあがってから「この部品を安く作ってくれる部品メーカーを募集します」と宣伝するよりも、製品化に必要な時間が短縮できるという点も大きなメリットと言えるでしょう。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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