(※写真はイメージです/PIXTA)

だれしも自分自身のことはよく理解していますが、他人のことはわかりません。したがって、知らない相手と交渉をするのは不安ですし、逆に、相手に自分を信用・評価してもらうのも骨が折れます。このような「情報が非対称」となる状態に置かれることで、どんな問題が生じるのか考えてみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

英語検定試験が重宝されるにはワケがある

英語検定など、世の中には多くの検定試験があります。受験者は受験料を払い、受験会場まで出向いて試験を受けるのです。ところで、なぜ金と時間を費やして、わざわざ試験を受けるのでしょうか?

 

それは、自分は英語ができる、ということを誰かにわかってほしいからでしょう。

 

自分自身のことはよくわかっていても、他人のことはよくわかりません。IT技術の発達で、自分のすべてが他人に知られるようになっては困りますが、一方で、自分がウソをついていないことを相手に納得させるのはむずかしい、という問題もあるのです。

 

就職試験のときに「英語はできますか?」と聞かれれば、イエスと答える学生は多いでしょう。しかし、ウソをついている学生がいる可能性を考えると、面接官はそれを信じることができません。正直な学生でも、自信過剰気味なこともあるでしょうし(笑)。

 

採用担当者が英語で面接をするのもつらいでしょうから、「英語検定試験の合格証書を持参すれば英語ができると認める」としたほうが、採用担当者にとっても、英語ができる就活生にとってもありがたいことなのです。

宝石商、飲食店…「客の信用」を得るのは容易ではない

店が客に信用してもらうのも、容易なことではありません。お祭りの屋台で本物の宝石を探す客はいないでしょうが、実際のところ、正直な宝石商であっても、客に信じてもらうことは大変むずかしいのです。

 

一方で、高級デパートや老舗宝石商は、客の信用を得やすいことで商売ができています。客としては「この店が偽物を売る可能性はゼロではないが、可能性は非常に低いだろう」と考えるわけです。なぜなら、万が一偽物を売ったことがバレたらこの店は信用を失い、将来にわたって商売ができなくなってしまいますし、そんなリスクを冒してまで偽物を売るとは思えないからです。

 

飲食店も「安くて美味しいです」と宣伝しても、なかなか信じてもらえません。全部の店が同じ宣伝をしているからです(笑)。そこで、実際に来店した客の口コミなどで評判が広がることを期待するしかないわけです。

 

最近はインターネットで〈この店を利用した人の多くは満足しています〉といった表示ができるようになったので、飲食店にとっても客にとっても便利な世の中になりましたが、ときとして「アルバイトを雇って美味しかったと投稿させる店」などもあるようですから、全面的に信用するのは危険かもしれませんね。

 

全国チェーンのハンバーガー店は、どこの町にも出店しています。田舎の人が都会の味を求めて来店することも多いでしょうが、都会の人が田舎を訪れたときに「知っている店のほうが安心だから」と考える場合も多いでしょう。地元にも安くて美味しい店はあるのでしょうが、地元の店が「当店は安くて美味しいです」と張り紙をしても、都会から来た人に信じてもらうのはむずかしいですから。

 

他人の嘘を見抜くのがむずかしい、という話の一環として、銀行が貸し出し金利を他行より高く設定するのは危険だ、ということもいえそうです。「客が全部逃げてしまう」という可能性もありますが、さらに怖いのは「ほかの銀行に融資を断られた危ない会社ばかり借りに来るから」ということもあるようです。

 

従来の取引銀行に断られたということは、「従来の取引銀行は知っているけれども自分は知らないような問題がある」という可能性が高いからです。

「自分に知識がなく、相手に知識がある場合」の交渉術

中古車を買う場合、一般の人が中古車の価値を見極めるのは非常にむずかしいといわれています。売り手は自分の車の乗り心地や故障歴等を熟知していますが、買い手はそうした情報が得られないからです。

 

中古車ディーラーは、中古車の価値をある程度判断できるでしょうから、我々が中古車を買うときには、彼らを頼らざるを得ません。彼らが高級デパートほど信用されているか、筆者にはよくわかりませんが。

 

筆者が大学生のとき「中古車ディーラーがなかったら何が起きるか」という授業がありました。「売り手は自分の車の価値を完全に知っているが、買い手は中古車の価値が一切わからない」という前提で考えるのです。

 

買い手が「100万円で中古車を買いたい!」と宣伝を出すと、目の前にたくさんの車が「売りますよ!」と並ぶでしょう。しかし、それらの価値は0円から100万円まで幅があります。そのなかから1台を選ぶとすると、よほど運がよくない限り、大きな損をすることになるでしょう。もし値段を下げれば、価値のある車の持ち主から順番に帰ってしまうでしょうから、同じことの繰り返しになります。だから、中古車ディーラーがないと中古車の売買が成り立たない、というわけです。

 

そのときは教授の説明に納得したのですが、あとからよい手を考えました。100万円で買いたいと広告すると、0円から100万円までの車が並びますが、そのあとで「やっぱり101万円で買いたい」と広告を出すのです。以前から並んでいる車は買わずに、新しくやってきた車を買えば、その車には少なくとも100万円の価値がある(と売主が考えている)わけですから、大損をする可能性は小さいといえるでしょう。

 

もうひとつ、「やっぱり99万円しか出せない」というと、100万円の価値のある車を持ち込んだ売り手は帰っていくでしょうから、そこを呼び止める、という方法も可能ですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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