(※写真はイメージです/PIXTA)

ギャンブルで稼いだお金に税金はかかるのでしょうか? 松本崇宏氏(税理士法人松本 代表税理士)が、「競馬」に関する税金について解説します。

「競馬で稼いだお金」に税金はかかる?

 

皆さんはギャンブルをしたことがありますか? 私は以前、友人に連れられて競馬場へ行ったことがあります。競馬というと酔っ払いのおじさんが楽しんでいるイメージを持っていましたが、実際の現場は綺麗で家族連れも多く、とても驚きました。

 

ギャンブルで稼いだお金に税金はかかるのでしょうか? 今回は「競馬」に関する税金の話をしたいと思います。

競馬の還元率は意外と高め

まずは競馬の仕組みから見ていきましょう。

 

まずは勝馬投票券、いわゆる「馬券」を購入します。この馬券収入から運営会社の取り分などを差し引き、レース結果を的中させた方に払戻しを行います。

 

中央競馬(いわゆるJRA)のホームページには、馬券100円のうち約75円が払戻金に充てられ、差し引かれた25円のうち、約10円は税金として国庫へ納付、残りの15円はJRAの運営に充てられると説明されています(参照:JRAホームページ-『国庫納付を通じた貢献』https://www.jra.go.jp/company/social/treasury/)。

 

どれだけ高い配当を出したとしても、運営側のJRAには必ず一定の利益が出るような仕組みになっているということですね。

 

投じた金額から差し引かれる、あるいは還元される比率は「還元率」や「控除率」と呼ばれます。競馬・競艇・競輪などの還元率が約70%~80%、パチンコの場合は(当然店によっても変わりますが)約80~90%と言われます。宝くじも一種のギャンブルと言えますが、還元率はなんと45%しかありません。

 

もし1万円を賭けて当たった場合、パチンコは8,000~9,000円ほど返ってきますが、宝くじだと4,500円しか返ってこないことになります。「少なっ」という感じですね。

 

「競馬好きはバクチ好きですよね」なんて聞きますが、還元率だけを見ると、ひょっとしたら宝くじで夢を買っている方のほうがバクチ打ちかもしれません。

競馬は「一時所得」。勝ち額によってはその2分の1が課税対象

税法上、「所得」は10種類に分けられます(給与所得、事業所得、利子所得、配当所得、譲渡所得、不動産所得、一時所得、退職所得、山林所得、雑所得)。

 

一般的に競馬の払戻金は「一時所得」に該当します。一時所得とは「営利を目的とする継続的行為から生じた所得『以外』の所得」、つまり偶発的に生じた所得のことを指します。“一時”という名のとおりです。

 

<一時所得の納税額の計算方法>

一時所得の金額は、【総収入金額-経費-特別控除額(最高50万円)】で求められます。この一時所得の金額の2分の1にあたる金額のみが課税対象です。

 

競馬による収入金額が50万円を超えていなければ、そもそも所得税はかかりません。

 

経費とは「収入を得るために支出した金額」のことです。競馬の場合、経費として認められるのは「当たり馬券の購入金額」のみです。

 

例えば競馬で1年間の払戻を受けたとします。300万円を的中させるために直接かかった馬券の購入金額が50万円だとしたら、いくら課税されるのか。

 

一時所得は、その2分の1に税金がかかります。

 

一時所得は200万円(総収入金額300万円-経費50万円-特別控除最大50万円)ですので、課税対象となる所得は100万円(200万円×1/2)です。

 

もし納税者が年収600万円のサラリーマンだった場合、給与所得600万円に課税対象となる上記100万円を合算した金額に税率をかけて税金を求めることになります。

サラリーマンなら「勝ち額90万円まで」なら非課税

ちなみに一般的なサラリーマン(給与所得者)の場合、給与所得以外の所得が20万円以下であれば確定申告はしなくてもよいという決まりがあります。これを競馬に当てはめて考えると、【払戻金-当たり馬券の購入金額】の結果が「90万円」までなら確定申告は不要ということになります(図表)。

 


【図表】サラリーマンの場合、競馬の利益は「90万円まで」なら確定申告不要

「外れ馬券」が経費として認められるケースとは?

一時所得の計算において、経費は結構揉める部分です。当たりより外れ馬券のほうが当然多いのですが、先ほども説明したように、外れ馬券は経費として差し引くことができません。

 

たとえば他のレースにも突っ込んでいるお金があるなか、1,000万円の万馬券を当てたとします。その当たり馬券の購入費用は10万円です。ただし他のレースもトータルすると年間2,000万円投じていたとしたら、どうでしょうか。年間収支が-1,000万円になっても税金が発生してしまうのです。

 

一般的にギャンブルの利益は一時所得になるとお話ししましたが、外れ馬券も経費にしたくなる場合があると思います。実際、払戻金が一時所得になるのか雑所得になるのかが裁判で争われたケースもありました。
 

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●判例①:

本件の競馬の馬券の払戻金については、馬券購入の態様や利益発生の状況等から雑所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当する(最高裁平成29年12月15日判決)

 

●判例②:

本件の馬券の払戻金は、馬券購入の態様や利益発生の状況等から一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費に該当しない(東京高裁平成28年9月29日判決)

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外れ馬券の購入金額について、判例①では「雑所得に該当し、…必要経費に該当する」と判断した一方で、判例②では「一時所得に該当し、…必要経費に該当しない」としています。

 

同じ競馬なのになぜ課税方法が違うのでしょうか? 国税庁のサイトでは以下のように記載されています。

 

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2 競馬の馬券の払戻金の所得区分等

 

競馬の馬券の払戻金の所得区分については、馬券購入の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して区分されます。

 

具体的には、馬券を自動的に購入するソフトウエアを使用して定めた独自の条件設定と計算式に基づき、又は予想の確度の高低と予想が的中した際の配当率の大小の組合せにより定めた購入パターンに従って、偶然性の影響を減殺するために、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するなど、年間を通じての収支で利益が得られるように工夫しながら多数の馬券を購入し続けることにより、年間を通じての収支で多額の利益を上げ、これらの事実により、回収率が馬券の当該購入行為の期間総体として100%を超えるように馬券を購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合は、雑所得に該当すると考えます。

 

なお、上記に該当しないいわゆる一般の競馬愛好家の方につきましては、従来どおり一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費として控除できませんのでご注意ください。

 

(引用:国税庁ホームページ-『競馬の馬券の払戻金に係る課税について』https://www.nta.go.jp/information/other/data/h30/keiba/index.htm)

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要は、収益を得られるようにシステムを利用するなどして年間のレースをほぼ全部行っているような場合は、その所得は一時的あるいは偶発的な利益ではないので雑所得としましょうという考え方です。こうしたケースでない場合は、従来通り一時所得に該当し、外れ馬券の購入費用は必要経費になりません。

 

営利を目的とするか否か、継続的行為とするか否かが大事なポイントだと思います。

 

外れ馬券を経費にするために年間のレースをほとんどやるというのは、一般の方にはハードルが高く、さすがに趣味の域を超えてくるのではないかなと思います。

「競馬の脱税」はどうやってバレる?

 

競馬の利益を確定申告している方はどれくらいいるのでしょうか。そもそも申告する必要があることを知らない方や、「どうせバレないでしょ」と申告せずにいる方も結構いるのではないかと思います。

 

一方で、税務署からお尋ねのあるケースも実在します。税務署はどうやって競馬の利益を把握しているのか。1つは「インターネットでの馬券購入」、2つめは「SNSでの勝ち額公開」です。

 

①インターネットでの馬券購入から把握(WIN5など)

⇒インターネット経由で購入すると記録が残ります。ネット経由の購入はクレジットカードの情報と紐づけられるので、税務署は高額な払戻が生じるたびに購入者リストを作成していても不思議ではありません。

 

②SNSでの勝ち額公開から把握

⇒税務署は必ず、SNSなどのメディアをチェックしています。きちんと確定申告をしているのであればもちろん問題はありませんが、無申告の状態で「万馬券当たったぞ!」と豪遊しているとどうなるのか。国税庁は、税務調査などで必要になった際はSNSの運営会社や動画投稿サイトに対して個人情報の開示を行い、アカウントに紐づけることができます。恐ろしいですね…。

 

「万馬券を当てたけど税務署は来ていない」という場合は、税務署にバレていないわけではなく、金額が小さいから来ていないなどの可能性も考えられます。

 

競馬で得た利益にも、金額によっては税金の支払い義務が生じることがあります。このことを覚えておいてください。当たった際には収支表をつけておいたほうがよいと思います。

 

 

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

 

税理士法人松本

税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。

 

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