脱税の基本は「売上を減らすか、経費を水増しするか」
脱税の手口はさまざまですが、基本は「売上を少なくする(売上除外)」か「経費を水増しする」ことで利益を小さくするという考え方になります。
売上高から経費を差し引いたものが利益です。税率は利益の部分にかかるので、利益を小さくすれば税金が減るというわけです(【売上高-経費=利益】←この「利益」に対して税率がかかります)。
本稿では「経費を水増しする」パターンを紹介します。
ありもしない「外注費」や「人件費」をでっちあげ
まずは「架空外注費」です。実際には何の役務提供もない、つまり本来払うべきお金は何もないのに、あたかも支払ったかのように見せかける手法です。よくあるのは、ペーパーカンパニーに支払ったり、脱税している経営者自身が触れる休眠会社にお金を入れて経費化し、あとでお金を回収したりなどです。この手口は製造業や建設業に多い印象です。
休眠会社などを使うので税務署は把握しづらいのでは?と思うかもしれませんが、税務署には国税総合管理システム(以下「KSKシステム」)というものがあり、支払先の会社が存在するか否か、申告が出ているかどうかなどは簡単に把握できてしまいます。税務署は怪しい支払いに目を光らせていますので、「〇〇コンサル費」などのよくわからない多額の支払いが出てくると調査が入りやすくなります。
同じく「架空」で挙げると、「架空の人件費」なども使われます。常習的に行っているケースだと、税務調査が来てもタイムカードでつけている勤怠管理を改ざんしたり、出勤簿も一緒に変えたりなど工作します。
例えば以前、税務調査を対応したお客様の中に架空の人件費を計上している方がいましたが、やはり税務当局にバレていました。その会社では従業員は寮に泊まっていることになっているのですが、寮が発注する弁当の数と本来帳面上に記載されているはずの人数が毎日ズレていたのです。そこで調査官が「この弁当は誰のものですか?」「この人はいませんよね」と追及していき、発覚に至りました。税務署ってやはりすごいなと思います。
勤務実態のない「親族」や「愛人」に給料を支払う
経費を水増しする際には「親族の人件費」なども使われます。勤務実態のない親族に対して給料を払い、経費を水増しするという手口です。「扶養の範囲内で給料にしておけば意外と大丈夫」と思っている経営者もいますが、そもそも勤務実態がないのでアウトです。
また、勤務実態があっても職務内容が重要です。例えば、経営者の妻に経理をやっている対価として毎月200万円、同じく経理担当の従業員に毎月25万円を支払っていると、前者は明らかに高額であり、税務調査の際に指摘を受ける場合があります。
親族系の事例に近いものとして、特殊関係人(いわゆる愛人)を従業員と装い、勤務実態がないにもかかわらず給与を支払ったり、パパ活女子に支払った“お手当”を人件費にしたりしている経営者も実際にいます。また、特殊関係人の家を社宅として買うケースもありますね。そんなことするなよとツッコミたくなりますが…。こうしたケースは、税務調査が来ることになって経理担当者や顧問税理士にバレてしまい、非常に気まずい思いをするのだろうなと思います。
あとあと辻褄が合わなくなってバレる「棚卸しの改ざん」
別パターンとして「棚卸し」というのもあります。商品販売をやっている方だと、月末の棚卸し、期末の棚卸しといった言葉を聞くでしょう。その棚卸しを改ざんして脱税をするというパターンです。
そもそも棚卸しとは、売上に対応した売上原価を計算するために行うものです。棚卸しを数えて1年間の売上を得るためにかかった売上原価を確定することで、1年間の儲けを把握します。
棚卸しの改ざんは、架空外注費のような「相手」がなく、自社で完結する手口です。そのぶん気軽に感じてしまうかもしれませんが、意外にバレやすいです。例えば期末に100あった在庫を80まで小さくすれば売上の原価が増え、利益を圧縮することができます。しかしあとあと辻褄が合わなくなり、不信感が出てきます。
魔が差してもやってはいけない「ポップな脱税」
もう少しポップな脱税手法も見ていきましょう。よくあるのは拾ってきた領収書を自社の経費に計上するなどです。これも“魔が差した”系の脱税手口と言えるでしょう。
B勘屋という名前を聞いたことはあるでしょうか? B勘屋は偽の領収書を販売している闇業者のことです。B勘定に対してA勘定という言い回しをすることもあります。申告書に経費計上できるのがA勘定だとすると、計上すれば不正になるのがB勘定です。税務署はB勘定の把握に力を入れているので、売っていても買ってはいけません。
「領収書の改ざん」も手軽で古典的な手法です。例えば飲食店で、記入欄が埋まっていない空の領収書を渡されることがありますよね。よくあるのが、空の領収書に収入印紙がかからない程度に適当に書いて経費計上するケースです。また、代金として「¥10,850」と書かれていたとしたら、ちょっと書き足して「¥40,850」に変えるなどもありますね。しかし調査官は鋭いもので、税務調査で領収書をチェックする際にインクや筆跡の違いなどから改ざんに気づくことがあります。結局バレるので、やらないに越したことはありません。
また、Suicaなどの交通系ICカードを使う手口もあります。交通系ICカードは自動販売機やコンビニなどでも使えて便利ですよね。しかし、交通費としてチャージしたにもかかわらずタバコや飲み物の支払いにも利用したとなると、「本来プライベートマネーで買うべきもの」を経費計上したことになります。バレないと思われがちですが、最近は税務調査時によく指摘されるようになっています。
他にも「複数人で払った領収書」があります。例えば代金5万円を10人で割り勘し、1人5,000円支払ったとします。ところが仲間に「いいよ、領収書持っていきなよ」と言われたので、10人分をまとめた5万円の領収書をもらった。これも脱税です。またカード払いも同様で、「自分がカードでまとめて払っておくから、それぞれの代金は現金で回収するね」というやり方も脱税になってしまうのでご注意ください。
脱税はサラリーマンにとっても他人事ではない
脱税というと経営者などが行うイメージがあるかもしれませんが、最近はサラリーマン(給与所得者)の脱税も結構耳にします。その大きなキーワードの1つが「損益通算」です。
「損益通算を使って税金を取り返そう」という触れ込みを聞いたことはありませんか? まずこの仕組みについて説明します。
給与をもらっている人はどうしても税金が引かれます。サラリーマンであれば源泉徴収されて源泉徴収票を受け取りますよね。給与に対してかかった税金は、事業をやっている方であれば、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得(頭文字をとって「不事山譲」)の中で赤字が出た場合に、不事山譲の赤字と給与の黒字を合算してよいことになっています。
そこで事業所得をわざと赤字に見せかけて、損益通算という形で給与にかかった所得税分を取り戻すという方法があります。最近も「エア副業」(実際にはやっていない架空の副業)を利用して還付の指導をしていた“なんちゃってコンサルタント”が、SNSで全国の会社員に向けて「納め過ぎた税金を取り戻そうキャンペーン」を呼びかけていたというニュースもありました。ひょっとしたら脱税は意外と皆さんの身近にあるのかもしれません。
「バレなきゃ大丈夫」という思考回路の末路
本稿でご紹介したのは古典的な脱税手口、つまり税務署も当然把握している方法です。やろうと思えば簡単にできてしまう手口もありますが、結局はバレて終わりですので、決して手を出してはいけません。
脱税すると「重加算税」というペナルティの対象になります。国税局が持つKSKシステムには評価ランクがあります。良い子・普通の子・悪い子に分けられるイメージです。重加算税の対象になると、悪い子=第3グループに分類され、税務調査の対象に選ばれやすくなります。「以前も悪いことをしたから、また悪いことをしている可能性がある。また税務調査へ行こうか」という流れになるのは想像に難くないですよね。脱税を指南するような“なんちゃってコンサル”などには引っかからないようにご注意ください。
経営者は判断することが仕事です。万が一、口車に乗せられて脱税してしまったとしても“なんちゃってコンサル”の方々は責任を取ってくれません。脱税が報道されたり、ネットに載ってしまったりすると、金融機関との取引や従業員との関係性が悪化するのは明らかでしょう。脱税は失うものが大き過ぎるのです。
税理士として、長く経営するコツは「適正な納税」と「適正な申告」だと考えています。経営者の方にはそれを心掛けながら頑張っていただければと思います。
松本 崇宏
税理士法人松本 代表税理士
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本
税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。
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