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「身に覚えのない著作権侵害」の警告書が届いたときの対処法
著作権侵害を指摘する警告書が届いた! だが、それを読んで我が身を振り返ってみても、やましいことは何もない。もしかするとエセ著作権なのではないか? そう思ったとき、どのように行動すべきだろうか。そんなときは著作権に詳しい弁護士に相談しよう…と話をまとめることは簡単だ。だが、法的な評価とは別に、「エセ著作権者」の行動パターンを把握しておくことで、自らの置かれた状況を的確に捉え、クレーマーに主導権を握られずに冷静に対処することができるのだ。
無視してよいケース:無差別警告型
まず、無視してよい警告書のパターンがある。それは、いろいろな人に無差別に送りつけられてくる警告書である。
例えば、多くの人が自由かつ合法に利用する、著作権がとっくに切れた昔の絵画や家紋などについて、「私はその作品に権利を保有しています。使用料をお支払いください」などと、見境なく警告書を乱発するエセ著作権者がいるのである。この手の警告書は、内容が定型文の寄せ集めに終始しているのが特徴である。どうかすると入金先の銀行口座番号まで書かれており、集金までの導線がやけに周到に用意されていることもある。また、ウェブで検索すると、似たような言いがかりをつけられた体験談が見つかることも少なくない。もはや詐欺まがい、架空請求の類といってもよいだろう。
こうした手合いは無視するのが一番だ。彼らは食虫植物みたいに口を開けて情報弱者が引っかかるのを待ち構えているだけで、相手にしなければそれ以上のアクション(提訴など)を取ってくることはまずない。
無視はしない方がよいケース:「ハッタリ型」と「思い込み型」
内容が特定的かつ具体的で、それなりの根拠を伴っているように見える警告書の場合、無視はしない方がよい場合が多い。このような警告書を送ってくるエセ著作権者は、大きく二種類に大別される。まず、警告者自身も、自身の主張がエセ著作権に基づくものだと自覚しておきながら警告しているケース。いわゆる「ブラフ、ハッタリ型」の警告だ。相手をビビらせることで正当行為を規制しようと試みる恫喝的戦法である。もうひとつは、警告者自身が、無知から真に著作権侵害の被害を受けたと誤解している「思い込み型」の警告である。
■一見、筋の通った真っ当な警告に思える「ハッタリ型」⇒専門家の力を借りて論破
ハッタリ型と思い込み型は、どのように見分けるか。ハッタリ型の警告書は、理路整然とした体裁を繕っている。読む人が読めば、論理の破綻や矛盾を見つけることは容易だが、法理に詳しくないと、一見、筋の通った真っ当な警告に思えてしまうのが特徴だ。付け焼き刃の知識で対抗するより、専門家の助言を求める方が望ましい。
ハッタリ型の警告に対して、無視をしたり、黙って表現を改めるなどの日和った対応をすると、相手が増長してしつこく警告してくることがある。しっかりと反論して、相手の主張を論破する回答書を送ってあげるとよいだろう。「お前が思っているほどこっちはバカじゃないからな」という意思表示を示すことにもなり、それ以上のアクションを牽制することができるのだ。
■筆致が大げさな「思い込み型」⇒毅然としつつも丁寧な回答書で反論
思い込み型の警告書には、論理で相手を説き伏せるというよりは、感情的に責め立てて相手を揺さぶろう、ねじ伏せようという魂胆が透けて見える。「傷つきました」「大きなショックを受けました」「大変困惑しています」「お客様に迷惑がかかっています」「道義上の問題です」といった言葉が使われていれば、思い込み型を疑った方がよいだろう。「大問題です」「絶対に訴えます」など、威勢だけは異様にいいが、よく読むと何ひとつとして法的根拠が示されておらず、文章も論理的ではなく、話がつながっていないことが多いのも、このタイプの特徴だ。
この手の警告者は、戦略的に大げさな書きぶりをしている場合もあるが、本気で感情的になっていることも多い。その場合、無視をすると次に何をしでかすか分からない。これこそが思い込みの怖さである。あまりにも常軌を逸しており、対話にすらならないであろうことが想定できる場合は、相手にしない方がよい。そのせいで相手がさらにエスカレートしたら警察沙汰にしてもよいだろう。
ただ多くの場合、一応、普段はそれなりに社会に適合している人や会社が、頭に血が上って冷静さを欠いたせいでエセ著作権を振り回してしまっているのである。この場合、やはり、反論文書を送るのが得策だ。ここでのポイントは、相手を思い込みという呪縛から解放するかのように、毅然としつつも丁寧な回答書で、相手の要求には道理がないと説くことだ。冷静に客観的に考えれば、勝ち目もなければ、そもそも怒るような問題でもないと相手に悟らせるのだ。
キレ返さない、「お気持ち」に配慮した儀礼的な謝罪も避ける
突然、一方的な激情と共にエセ著作権クレームをよこされて、キレたいのはこっちの方だが、感情の応酬になると収拾がつかなくなる。感情的な文句は一切無視することが肝心だ。キレ返すことはもちろん、「お気持ち」に配慮して儀礼的な謝罪をすることも避けるべきである。とりあえずその場を収めようと、「ご気分を害してしまい申し訳ありません」などと形式的に謝ってしまうむきもあるが、そうすると「悪いと思っているならカネを払え、謝罪文を公表しろ」などと付け込んでくるエセ著作権者は少なくないし、「形式的」な謝罪がかえって反感を招くこともある。
したがって、感情に流されず、あくまで毅然とした態度を堅持するとともに、陰謀論にハマった患者の洗脳を解くセラピストの如く、あるいは道理の分からないワガママな子どもを諭す教育者の如く広い心をもって、創作プロセスにはなんら不正な点はなく、道理のない要求には応じられない旨、端的に断言しよう。
一方、警告書に対する現代的なカウンターとして、送られてきた警告書の文面をネット上に公表するアプローチがあるが、その是非については、次回の記事で述べよう。
友利 昴
作家・一級知的財産管理技能士
企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ商標権事件簿』(パブリブ)、『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。
講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。
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