<前回記事>尋常でなくパロディだらけの『ポプテピピック』、実は「見事なまでに法的に問題がない」という驚愕【一級知的財産管理技能士が解説】
引用は「無断」が当たり前
エセ著作権者や、エセ著作権であることを理解せずに合法な著作物の利用行為を咎めるメディアなどがよく使う言葉が「無断使用」「無断引用」だ。文脈にもよるが、ほとんどの場合、「無断」という語は不正であることを含意する。
しかし、合法に著作物を利用している以上、著作権者に断りが要らないのは当然のことであり、正当行為に他ならない。コンビニに置いてあるフリーペーパーやチラシを取って店を出たら、「無断で持って行ったぞーーーーーっ!」「カネも払わず出ていったぞーーーーーーっ!」などと大声で叫ばれるようなものである。
そんなことを言われたら、何も悪いことはしていないのに「いや、私が持っていったのはただのフリーペーパーでして…」などとしどろもどろに釈明しなければならず、そうしなければ窃盗犯扱いも同然である。どう考えても名誉毀損モノだ。このような言葉で、善良な市民を公に非難する人やメディアの気が知れない。
「無断引用」という言葉はマスメディアでも誤用されがち
特に「無断引用」という言葉は、使われがちではあるものの、実は法律を無視した恥ずかしい誤用だ。「引用」とは、著作権法で認められた、著作権が制限される利用方法のひとつである。自由に(無断で)できるのが前提の行為に、わざわざ「無断」をつける矛盾といったらない。公道を歩く行為を「無断歩行」というようなものだが、マスメディアにおいてもしばしば使われている。
試みに、いくつかの新聞社の過去記事データベースで調べてみる。2000年1月1日から2022年5月31日までの期間で、「無断引用」という語を含む記事を抽出してみると、以下のような結果になった。
読売新聞(ヨミダス歴史館)…92件
朝日新聞(朝日新聞クロスサーチ)…30件
毎日新聞(毎索)…51件
この中には、著作権侵害にあたる事件を報じたと思しき記事と、適法な引用で本来は責めるべきではない行為を報じたと思われる記事とが混在しており、いずれにしても、用法としては誤りといえる。
弁護士の北村行夫は、「無断引用」という誤用が流布することの問題点を以下のように喝破している。
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〔「無断引用」という〕新聞の見出しからは、承諾の有無が問題であるかに報道されていることになるが〔…〕もっぱら無断という動かしがたい事実に焦点を当てて報道する結果、引用して利用した者が、ただそれだけで不当な非難を被ることになってしまうし、何より読者に問題の所在〔引用者注:他人の著作物を黙って使うことに合理性があるか否か〕をきわめて不正確に伝え、ひいては、著作権思想の普及を妨げているのである(※注)。
(※注)北村行夫『新版 判例から学ぶ著作権』(太田出版)2004年 p.296
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筆者もまさに同意見である。あまつさえ、こうした報道に引っ張られてか、自分の書いた記事に「無断引用禁止」などと注意書きをしているブロガーやSNSユーザーなども少なくなく、中にはプロの漫画家や脚本家などもいるのだから唖然としてしまう。もはや彼らに至っては、玄関先に「ウチの前の公道は通行禁止!」などと貼り紙をしているようなものである。
そんなに引用がイヤなら「作品発表を止める」しか…
そんなに引用されるのが嫌だというのなら、作品を発表するのを止めることだ。自分だけの秘密のノートにでも書いて引き出しにしまっておけばいい。著作権法上、未公表の著作物は引用して利用することが認められていないからだ(つまり著作権侵害になる)。言い換えれば、無断引用禁止論者は、作品を世に問う資格がないということである。プロでもアマでも作品を世に問う以上、それは当然に覚悟しなければならないことなのだ。
引用のフリをした著作権侵害は、そもそも引用ではない
もっとも、昨今、悪質なまとめサイトやミドルメディアが、「引用」の大義名分を掲げながら、他者の著作物をむやみに転載しているケースもある。これらは引用の要件を満たさなければ、単に著作権侵害である。このように、わざわざ「引用」を謳いながら著作権を侵害する行為を指して「無断引用」と称したくなるのは、分からないでもない。だがそれは、引用の要件を満たしていない以上、もはや引用ではないのだから、やはり誤用だ。
前掲・北村は、一般的用法としての「引用」と区別して、著作権法上の「引用」を「適法引用」と称することを提唱している。なんだか、「みりん」が「みりん風調味料」の登場によって「本みりん」と称されるようになったかの如しだ。ならば「引用」を謳いながら著作権を侵害する行為は、引用風著作権侵害、か。
友利 昴
作家・一級知的財産管理技能士
企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ商標権事件簿』(パブリブ)、『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。
講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。
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