<前回記事>
【“パクられ妄想”ってコト…!?】「絶対に訴えます」――ある日突然〈著作権侵害の警告書〉が届いたら?こんな文面なら「無視」は非推奨(一級知的財産管理技能士が解説)
「警告書の暴露」は基本的には非推奨
エセ著作権者から警告書を受けた際、その警告書の内容をネット上で暴露するというカウンター手法がある。以前から無いわけではなかったが、ブログやSNSといったパーソナルメディアが一般化した現代においては、比較的、誰でも取り得る手法である。
人が突然、警告書を内容証明郵便などで受け取ったときの一般的な感情は、やはり不安や怒りであろう。その解消のために、それを公表して広く世間に問い、助言や同情を得ようと思う気持ちは分からなくはない。しかし、的外れなお節介に翻弄されたり、かえって軽率な暴露行為や被害者ぶった振る舞いが反感を受けることも少なくない。問題解決手法として、基本的にはおすすめできないアプローチだ。
暴露した結果、むしろ「自分の法的立場が危うくなる」可能性も
それに、本人に直接警告書を送ってくるタイプのエセ著作権者は、実はエセ著作権者の中では紳士的である。世の中には、ネットやメディア上で、突然、公に他人を非難するエセ著作権者も多いのだ。本人にだけそっと権利侵害を通告するエセ著作権者は、まだマトモな感性を保っているといえる。そんな私的な通告に対し、公に暴露することで応えるのは、フェアではないだろう。
フェアでないばかりか、かえってこちらの法的立場を危うくする可能性もある。警告書には定型文的な部分も多く、そこは別としても、文書全体としては著作権で保護される著作物である場合が多い(しかも未公表の著作物は、引用による利用もできない)。安易に公表すれば著作権侵害になり得るのだ。つまり「エセ著作権警告書の著作権侵害」という状況だが、これほどややこしい罪もない。ただし、全文をそのままアップするのではなく、その主張の要旨を紹介するに留めれば著作権侵害にはならないので、どうしても公に反論したいのなら、そのような手法を採るのがよいだろう。
警告書の暴露が違法にならないケースとは?
ところで、警告書の暴露が著作権侵害になる可能性があるのは、警告者がフェアプレーをしていた場合の話であって、アンフェアな警告に対しては、違法とはならない場合もある。例えば、警告者が、私的な通知にとどまらず、公にも相手を非難していたような場合だ(警告書を送りつつ「〇〇さんに著作権侵害で警告書を送りました」などとブログでその旨を書くなど)。この場合、相手はその警告書を公表して、公に自らを弁護しなければならない状況に追い込まれたといい得る。かかる状況下で、警告者が警告書についての著作権を行使することは、権利の濫用として認められない可能性がある。
【ケース①】自分の名誉を守るための暴露
参考になる裁判例がある。永沢某なる一般人が、著名な刑事弁護士の高野隆について、高野の所属する弁護士会に対し懲戒請求を行った(なお、中身としては言いがかりのような内容であり、懲戒はされなかった)。のみならず永沢は、そのことを自ら産経新聞社にリークし、高野が懲戒請求を受けたことがニュースサイトで報じられるに至った。これを受け、高野が永沢の書いた懲戒請求書をブログで全文公表したうえで、反論文を掲載したところ、永沢が高野を著作権侵害で訴えたのである。
これに対し裁判所は、永沢が懲戒請求書を産経新聞社にリークした行為は、「高野の弁護士としての信用及び名誉に関して非常に大きな影響を与えるもの」とする一方で、懲戒請求書が著作権によって保護されるべき財産的・人格的利益は「それほど大きなものとはいえない」と評価。この評価に基づき、高野が懲戒請求書全文を公開することの必要性は、永沢の著作権を保護する必要性を「はるかに凌駕するというべき」とまで認定し、永沢の主張を権利の濫用として排斥したのである(※注)。公に売られたケンカの一環として送られた警告書に対し、反論と自己弁護のためにその警告書を公表することは、法的に許容され得ることを示唆した裁判例である。
(※注)東京地裁令和2(ワ)4481号・令和2(ワ)23233号、知財高裁令和3(ネ)10046号
【ケース②】公益に資する場合(注意喚起のために架空請求書ハガキを公表する等)
これ以外にも、警告書の公表が公益に資する場合は、やはり権利濫用の法理により、著作権侵害を免れる可能性がある。例えば架空請求のハガキが家に届き、公への注意喚起の目的で「こんなハガキにご注意!」とネットに全文をアップすることは、十分に公益に資する行為といえる。これに対し架空請求業者が著作権侵害を訴えることが許されないというのは、感覚的にも理解されると思う。エセ著作権に当てはめると、例えば、無根拠な警告を乱発して世間を混乱させているエセ著作権者から届いた警告書を公表し、その不当性を暴く趣旨で論じる行為には公益性があるといえ、著作権侵害を排斥する理由になり得るだろう。
なお、以上は主に非公開の私的な警告書を念頭に論じたが、我が国の著作権法上、裁判や行政審判において公開された、当事者や代理人等による陳述は自由に利用できることになっている。また、裁判所の判決や決定等は著作権による保護の対象外とされており、やはり自由に利用できる。
友利 昴
作家・一級知的財産管理技能士
企業で法務・知財業務に長く携わる傍ら、主に知的財産に関する著述活動を行う。自らの著作やセミナー講師の他、多くの企業知財人材の取材記事を担当しており、企業の知財活動に明るい。主な著書に『エセ商標権事件簿』(パブリブ)、『職場の著作権対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)、『知財部という仕事』(発明推進協会)、『オリンピックVS便乗商法』(作品社)など多数。
講師としては、日本弁理士会、日本商標協会、発明推進協会、東京医薬品工業協会、全日本文具協会など多くの公的機関や業界団体で登壇している。一級知的財産管理技能士として2020年に知的財産管理技能士会表彰奨励賞を受賞。
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