※画像はイメージです/PIXTA

長い間デフレに悩まされていた日本ですが、2023年に約41年ぶりのインフレとなり、新たな問題に頭を抱えています。本記事では、元IMF(国際通貨基金)エコノミストで東京都立大学経済経営学部教授の宮本弘曉氏による著書『一人負けニッポンの勝機 世界インフレと日本の未来』(ウェッジ社)から、日本のインフレの実態について解説します。

企業物価指数の動き

次に、企業間で取引するモノの価格動向を示す「企業物価指数」の動きを確認しましょう。

 

図表3をご覧ください。これは、企業物価指数の推移を示したものです。企業物価指数は、日本銀行が毎月公表しているもので、国内の企業間取引における商品の価格変動を指数化した国内企業物価指数のほか、輸出品の価格を対象とした輸出物価指数、輸入品の価格を対象とした輸入物価指数があります。

 

[図表3]企業物価指数

 

国内企業物価指数は、2020年平均を100とした場合、2021年には104.6、2022年には114.7となっています。2023年6月には119.0と、過去最高だった2023年4月から横ばいとなっています。

 

前年比で上昇率を見ると、2021年は4.6%だったのに対し、2022年には9.7%へと大きく上昇し、その後も、高水準で推移しています。年間ベースの伸びは、比較可能な1981年以来で最高の水準に達しています。

 

次に、輸入物価指数を見ましょう。輸入物価指数は、輸入品が日本に入着する段階の価格を調査したものです。海外の市況の影響を受けるので、変動が激しくなる傾向にあります。

 

また、輸入契約は外貨建てで行われることが多いため、為替要因によっても大きく変動することがあります。そのため、輸入物価指数には、外貨建ての契約額を円換算した円ベースと、契約通貨ベースの2種類が公表されています。

 

輸入物価指数(2020年平均=100)は、円ベースで2021年に121.6、2022年に169.1と上昇し、契約通貨ベースでは2021年に118.7、2022年に144.0となっています。2022年の上昇率(前年比)を見ると、円ベースは39.0%と、ドルなど契約通貨ベースの21.3%を大きく上回っており、輸入物価の上昇の約半分が円安要因ということがわかります。

 

2023年6月の円ベースの輸入物価指数は157.9で、前年同月比でマイナス11.3%となっています。上昇率は、2022年7月に49.2%でピークを迎え、その後もしばらくは高水準を維持していましたが、2023年4月からマイナスに転じています。

 

品目別に2022年(平均)の上昇率を見ると、電力・都市ガス・水道が36.0%、鉱山物が27.3%と、全体を押し上げていることがわかります。

 

また、為替や資源価格の影響を受けやすい鉄鋼は26.7%、石油・石炭製品は18.0%と高い伸びを示しています。一方で、飲食料品は5.6%、繊維製品は4.0%上昇するなど、消費者に近い川下でも値上げが広がっています。

 

輸入物価の上昇を主因としたサプライチェーンの川上の上昇が、川中、川下へと転嫁されているといえます。ただし、足元では、国際商品価格の下落や円安進行の一服を背景に、川上に近い商品では価格が下落に転じています。

 

企業側も値上げはやむを得ない

企業は膨らんだコストを販売価格に転嫁できない場合、その収益が圧迫されます。これまで日本企業は、薄い利益率で耐えてきましたが、コスト削減努力だけでは吸収しきれない状況におかれています。

 

値上げは消費者にとって痛いものですが、値上げができないと企業にとっては大きな打撃となります。価格転嫁がうまくできてこなかったことが日本の問題のひとつです。

 

日本企業が値上げをしないのは、景気が改善しても賃金が上がらず、消費者が値上げを受け入れないという考え方が根強いためです。しかし、現在では価格転嫁が進んでいることを示すデータもあります。

 

帝国データバンクによると、2022年には食品の主要メーカーだけでも2万品目以上の食品が値上げされています。これは、日本の経済にとって重要なポイントであり、価格転嫁が今後も進んでいくかどうかによって、企業の収益性や消費者の生活に大きな影響を与えると考えられます。

 

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一人負けニッポンの勝機

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宮本 弘曉

ウェッジ社

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