どうすれば賃金を上げることができるのか?
賃上げは経営判断であり、その基本は生産性と経済の見通しです。賃金を上げるためには、それだけの利益を確保しなくてはいけません。これは、生産性を高めることにほかなりません。
生産性とは、付加価値を労働投入量で割ったものです。分子である付加価値を変えずに、分母である労働投入量を減らすことで、つまり、労働投入量を効率的にすることで生産性を高めることは可能ですが、同時に、分子である付加価値を高めることが重要です。
近年、労働生産性の上昇率は停滞中
生産性を向上させるためには、人的資本を高め、デジタル化など資本へ投資をすることが重要です。
労働生産性は、労働の質、資本装備率、そして全要素生産性(TFP)という3つの要素によって決まります。労働生産性の分子である付加価値を生み出すには、機械や設備などの「資本」や、それを使いこなす「労働」といった生産要素が必要となります。また、生産技術や経営効率、組織運営効率なども付加価値に影響を与えるとされ、これら生産要素以外で付加価値に寄与するものをTFPと呼びます。
一橋大学の深尾京司教授と牧野達治氏による研究によれば、近年、労働生産性の上昇率は停滞しています※。その理由として、労働の質、資本装備率、TFPのすべての要素が低迷していることが挙げられます。つまり、労働生産性の3つの要因が揃って停滞しているということです。しかし、これは逆に、各要素を改善することで労働生産性を高める可能性があるということでもあります。
ここでは、まず労働の質について見ていきましょう。
企業は、従業員のスキルや知識を向上させるために、職場内外で様々な教育・訓練を実施しています。職場内で業務を通じて行われる訓練はOJT(On-the-JobTraining)、職場の外で行われる訓練はOFF‐JT(Off-the-Job Training)と呼ばれます。
かつて、日本の企業は従業員の能力向上に力を入れ、労働者の生産性を高めることで経済成長を牽引していました。しかし、バブル経済崩壊後の経済の低迷が続くなか、そうしたモデルは崩れ、企業による従業員への教育投資は減少傾向にあります。
日本の企業が支出する教育訓練費の推移を見ると、ピークはバブル経済崩壊直後の1991年で、その後は徐々に減少し、2021年にはピーク時の4割にまで落ち込んでいます。
企業の教育訓練費への支出は、企業規模によって大きな違いがあります。2021年では、規模が1000人以上の企業の教育訓練費は、30〜99人の企業の教育訓練費の約1.9倍となっています。つまり、勤務先の規模によって受けられる人的投資が大きく変わってきます。
※ 深尾京司/牧野達治(2021)「賃金長期停滞の背景 製造業・公的部門の低迷響く」日本経済新聞2021年12月6日朝刊。
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