(※写真はイメージです/PIXTA)

数年前、国際調査報道ジャーナリスト連合が入手した「パナマ文書」と「パンドラ文書」から、世界各国の政治家や富裕層によるタックスヘイブンへの法人設立の詳細が明らかになり、世間を驚かせました。以降「海外法人設立=悪」との印象が強まりましたが、実情は報道とかなり異なっています。具体的に見てきましょう。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

大量の電子ファイルから判明した、著名人らの資産形成状況だが…

日本法人の実効税率は29.74%ですが、世界には法人税率がずっと低い国も多くあります。たとえば、金融ハブの香港では、法人所得200万香港ドル(約3,000万円)までは8.25%です。さらに、タックスヘイブンとして知られる英領バージン諸島(BVI)は、なんと法人税率が0%です。

 

こうした、低税率国・地域に法人(会社)を設立してビジネスや投資を行えば節税できるのではないか、上手くやる方法を見つけたい…という気持ちになるでしょう。ところが、こうした意気込みに冷や水を浴びせたのが「パナマ文書」と「パンドラ文書」でした。

 

これらはいずれも、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した、1,190万件余の電子ファイル群の総称です。

 

2016年に公表されたパナマ文書は、データ量が2.6TBでファイル数が1,150万件、2021年に公表されたパンドラ文書は、データ量が2.94TBでファイル数が1,190万件という膨大なものでした。これらの文書から、世界各国の政治家や富裕層がタックスヘイブンで法人等を設立してきたこと、そして、その法人に入れられた資産には、多額の不正な蓄財が含まれていることが判明したと報道されました。

 

この経緯から「海外法人」には「いかがわしい、不正、脱税」といったネガティブなイメージがついてしまいました。

一見ネガティブなエピソードも、すべてが違法ではない

BBC News Japanの記事では、パンドラ文書によって明らかになったこととして、以下のような例が列挙されていました。

 

●イギリスの不動産1,500軒超がオフショア企業を通じた購入であることが判明。こうした不動産の所有者には、汚職疑惑のある個人も含まれていた。

 

●カタールの首長一族が、ロンドンの高級住宅をめぐり1,850万ポンド(約28億円)を脱税していた。

 

●イギリスの実業家サー・フィリップ・グリーン夫妻が、経営破綻したブリティッシュ・ホーム・ストアを売却したあと、高級不動産を買い占めていた。

 

●英保守党の著名な資金支援者が、ヨーロッパ最大規模の汚職スキャンダルに関わっていた。

 

●ヨルダン国王が、ひそかに所有していた会社を通して、イギリスとアメリカの不動産購入に7,000万ポンド(約105億円)を使った。

 

出典:BBC News Japan『「パンドラ文書」はどういうものか 大量リークが示すもの』(2021年10月6日)

 

たしかに、ネガティブに取り上げたくなるエピソードが満載ですが、しかし、必ずしもすべてが違法という話ではありません。

「脱税」と明記されていた事案、英文の元記事を当たると…

しかし、上から2つ目の例「カタールの首長一族が、ロンドンの高級住宅をめぐり1,850万ポンド(約28億円)を脱税していた」(下線は筆者)というのは見過ごせません。

 

この事案を深堀してみましょう。

 

同一事案について書かれたと思しき記事、“Pandora Papers: Qatar ruling family avoided £18.5m tax on London super-mansion”(『パンドラ文書:カタールの統治一族がロンドンの高級住宅について1,850万ポンドの税を回避』、日本語訳:筆者。以下同様)が2021年10月5日に同じくBBCに掲載されていました。

 

本文中には、以下の記載がありました。

 

The family bought the properties in central London via offshore companies for over £120m and applied to make them into a 17-bedroom "super-mansion". There is no suggestion that either the Qatari family or the sellers of the two properties acted illegally.

 

一族はオフショア企業を通じてロンドン中心部の物件を1億2,000万ポンド以上で購入し、17ベッドルームの「超大邸宅」にすることを申請していた。カタール人一家と2つの物件の売り手、いずれについても、違法行為を行ったことを指し示すものはない。

 

出典:BBC “Pandora Papers: Qatar ruling family avoided £18.5m tax on London super-mansion”(2021年10月5日)

 

しかし、この記述はBBC News Japan(2021年10月6日)の「1,850万ポンド(約28億円)を脱税していた」という記述と明らかに食い違っています。私は英国の税法については専門外なので断定はできませんが、おそらく以下のような事案だと思われます。

 

Aさんが個人で所有しているロンドンの高級住宅をBさんに売却する場合、1,850万ポンドの印紙税がかかるものと思われます。

 

しかし、Aさんがオフショア法人を設立して、そのオフショア法人がロンドンの高級住宅を持っている、そしてAさんがこのオフショア法人の株式をBさんに売却する場合、1,850万ポンドの印紙税は不要になるものと思われます。

 

■不動産を売買する場合 → 印紙税1,850万ポンドが必要

 

■不動産を所有する法人を売買する場合 → 印紙税1,850万ポンドは不要

 

そして、BBCは、この取引には「違法性がない」と述べているのです。

オフショア法人の正当な活用で、さまざまな「節税」が実現可能に

このように、不動産を購入するたびにオフショア法人を設立して、不動産を売却する代わりに法人ごと売却するという仕組みは、香港人や中国人は度々行っています。

 

日本人にとっての「法人」とは、オフィス・工場・商店を持ち、多くの人々が働いている、「人・モノ・金の集合体」という意味合いが強いでしょう。しかし、香港人・中国人や、その他の多くの外国の人々にとっては、資産を入れておくための箱でしかないこともあるのです。

 

パナマ文書とパンドラ文書によって、ネガティブなイメージがついてしまった海外法人ですが、香港法人・シンガポール法人・BVI法人などを使うことで、節税する、日本居住者のままではできない投資をするなど、さまざまな使い方があります。

 

ぜひ、海外法人を正しく理解・活用して、楽しく賢い投資をしていきたいものです。

 

 

小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士

 

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