生き方が多様化する現代。結婚が当たり前だったころと比べて、生涯独身や事実婚といった選択肢もさほど珍しいものではなくなりました。本記事では、中央大学法学部教授の遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、法的観点から日本の結婚制度について解説します。

「負け犬」増加中の日本

『負け犬の遠吠え※1』が出版されたのが2003年です。この本は、当時、ベストセラーとなり、「負け犬」は、2004年度流行語大賞でトップテン入りも果たしました(ちなみに大賞は、「チョー気持ちいい」でした)。

 

ところで、著者の酒井順子さんが書いていた「負け犬」の定義をご存じですか? 書籍の冒頭の部分を抜粋します。

 

狭義には、未婚、子ナシ、三十代以上の女性のことを示します。この中で最も重要視されるのは「現在、結婚していない」という条件ですので、離婚して今は独身という人も、もちろん負け犬。二十代だけどバリバリ負け犬体質とか、結婚経験の無いシングルマザーといった立場の女性も、広義では負け犬に入ります。つまりまぁ、いわゆる普通の家庭というものを築いていない人を、負け犬と呼ぶわけです。

 

さて、それから20年近くが経ちました。今の日本はどのようになっているでしょうか。総務省統計局の国勢調査を見ると、「生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合)」は、年々上昇を続けており、1980年頃まで5%を下回っていたものが、2020年調査では、男性が25.7%、女性が16.4%に達したという結果になっています。

 

また、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生涯未婚率は、今後、もっと上昇することが予想されています。この数値を多いと思うか少ないと思うか、よいと思うか悪いと思うかは、見解が分かれるでしょう。1つ確かなことは、結婚をしない人が、相対的に増えているということです。

 

※1 著者(当時)の同世代が抱える本音を書き綴ったエッセイ。酒井順子『負け犬の遠吠え』講談社文庫

「つき合うこと」と「結婚すること」

なぜ、結婚をしない人が増えているのでしょうか。たくさんの理由があるようです。それを調査・分析した書籍(研究論文なども含む)も多く存在します。「結婚しないのではなくて、できないのだ!」という悲痛な叫びも聞こえてきます。経済的に苦しいという理由や、結婚したくてもよきパートナーがいないという理由など……。

 

しかし他方では、結婚しようと思えばできる環境だけれど、敢えてそれを選択しない人も少なくありません。独身の人は、時に、独身生活にそれなりのメリットを感じているようです。そして、そのメリットの大きな1つに、「束縛されずに済む」ことがあるようです。

 

ここでいう「束縛」とは、おそらく、その大半は事実的なもの(1人の時間がとりにくくなる、稼いだお金の自由がきかなくなるなど)でしょう。

 

しかし同時に、法的にも、結婚には、結構強い拘束性があります。そもそも、結婚(法律用語では「婚姻」)とは、男女が、継続的に生活上の結合を約束する身分的な契約です。結合するぶん、それはけっこう、拘束的です。

 

・まず、夫婦は、同じ氏にしなければなりません(夫婦同姓。民法750条)※2

・また、配偶者の血族とも親族関係が生まれます(姻族関係。民法725条)※3

・お互い貞操義務を果たさなければなりません(民法770条1項1号)※4

・同居し、協力し、扶助をしなければなりません(民法752条)※5

・日常家事から発生する債務については、お互いが連帯して責任を負うことになります(民法761条)※6

 

単につき合っているという状態とは異なる、法的拘束力の強い状態。これが結婚(法律婚)なのです。また、結婚は、「つき合う」というような純粋な私的関係ではなく、一種の公的関係といってもいいかもしれません。

 

今お話しした、結婚に伴う法的な権利・義務の発生のほかにも、結婚をする際には、婚姻届を役所に提出して戸籍に登録する(いわゆる、入籍)などの手続が必要ですし、また、法が定めた結婚ができる要件を満たしていなければなりません。

 

どんなに愛し合っていても、一定の近親者(たとえば、親と子、兄と妹など)の間では結婚ができませんし、また、中学生同士の結婚もできません。すなわち、結婚は、「つき合う」というレベルの純粋な精神的作用ではなく、社会的な制度なのです。

 

※2 【民法750条】夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。


※3 【民法725条】次に掲げる者は、親族とする。

1.六親等内の血族
2.配偶者
3.三親等内の姻族

※4 【民法770条】夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

⇒ 配偶者に不貞な行為があったとき。(後略)

 

※5 【民法752条】夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。


※6 【民法761条】夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。(後略)

 

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遠藤 研一郎

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