生き方が多様化する現代。結婚が当たり前だったころと比べて、生涯独身や事実婚といった選択肢もさほど珍しいものではなくなりました。本記事では、中央大学法学部教授の遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、法的観点から日本の結婚制度について解説します。

「婚約」とはどういう関係?

「婚約」という関係があります。簡単に言うと、将来結婚しようという約束のことです。結婚(法律婚)と異なり、口約束でも十分に成立しますが、通常は、婚約指輪の受け渡し、結納、相手方の両親への挨拶などがなされます。では、婚約がなされると、どの程度の法的拘束力が生じるのでしょうか?

 

まず、婚約をした場合、両者は、誠実に交際して、結婚を成立させる努力義務を負います。ただし、相手方が途中で婚約破棄をしてきた相手方に対して、「結婚をしろ」と強制することはできません。それをしても、円満な結婚生活が送れることが望めないからです。

 

しかし他方で、相手方が正当な理由なく婚約を破棄した場合には、相手方に対して損害賠償を求めることができます。「正当な理由」があるかどうかは、個別的な判断となりますが、相手方に不貞行為があったような場合は、一般的に、正当事由が認められる傾向にあります。他方で、性格の不一致が発覚した、相手が特定の宗教を信仰している、家族から反対を受けたなどの場合、正当事由が認められないケースもあります。

 

つまり、「つき合う」という状態よりも法的拘束力が強まった状態。これが婚約です。

「婚前契約」とは?

結婚に伴う拘束力は、婚前契約がある場合、より強いものになるかもしれません。婚前契約とは、結婚する者同士で、結婚する前に、結婚後の生活に関するさまざまな約束をしておくことです。

 

どのような内容の取り決めをするのかについて制限があるわけではありません。たとえば、結婚前からお互いが保有する財産をどうするか、家事の分担はどうするか、夫婦間の家計(家賃、食費など)の管理をどうするか、子どもが生まれたときに育児の分担をどうするか、どちらかが浮気をして離婚するに至った場合の親権や慰謝料をどうするかなど、内容はさまざまです。

 

生活の細かい決め事まで、すべて法的拘束力をもたせられるかは、検討の余地があります。しかし、いずれにしても、口約束ではなく書面で契約書を作成しておくことで、うやむやにさせない点に大きな意義があります。

 

もちろん、結婚をしてから、その都度、約束をすることも可能です。ただし、夫婦間の契約は、いつでも取り消せることになっています(民法754条)※7。ですから、結婚をしてからの約束は、実は、法的拘束力が強くありません。結婚前にすることに意味があります。

 

なお、婚前契約の締結にあたっては、夫婦での取り交わしでも十分に有効ですが、法律の専門家(弁護士や行政書士※8など)に作成を依頼することによって、より厳密な契約内容にできます。また、契約書を公正証書※9で作成していると、直ちに相手方の財産を差し押さえるなどの手続が可能となる場合もあります。

 

※7 【民法754条】夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

 

※8 法律に則った書類作成をする職業。司法書士との違いは書類の提出先。行政書士は行政機関にまつわる書類、司法書士は法務局や裁判所に関係する書類を作成する。
 

※9 公証人法に基づいて公証人が作成する公文書。証明力、証拠力を備えた証書となるので、公正証書の契約に関して裁判になったときは証拠として採用される。紛争の予防に効果的。

 

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遠藤 研一郎

株式会社ウェッジ

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