「違法電動アシスト自転車」は公道を走行できない
警察庁と国民生活センターが10月25日に公表したところによれば、現在「電動アシスト自転車」として販売されている9車種が法令の基準に適合していないことが判明した。
電動アシスト自転車は、道路交通法上「人の力を補うため原動機を用いる自転車」と定義されている。そして、その基準は道路交通法2条1項11号の2、および同法施行規則1条の3によって定められている。法令の基準をみたさない「違法電動アシスト自転車」は、法令上は自転車ではなく「原動機付自転車等」に該当するため、自転車として道路を通行させることはできない。
したがって、警察庁は、該当車種の使用を控えるように呼び掛けている。
なお、原動機付自転車については「道路運送車両の保安基準」(国土交通省令)に定められている厳格な要件をみたさない限り、公道を走行することができない。保安基準においては、車体のサイズや必要な装備(速度計、方向指示器等)等が細かく定められており、違法電動アシスト自転車が要件をみたすことは不可能に近い。
もちろん、ナンバープレートなしで公道を走行できないことは、いうまでもない。
違法電動アシスト自転車の事故…「加害者の賠償責任」は?
もし、違法電動アシスト自転車が公道を走行していて事故を起こした場合、加害者の民事上の責任の追及はどうなるのか。これまでに2,000件を超える交通事故事案を担当した荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所 代表)に聞いた。
【荒川香遥弁護士】
「交通事故で人を死傷させた加害者については、民法上の不法行為責任(709条)が問題となります。
不法行為の要件としては、まず、加害者の『故意または過失』が要求されます。違法電動アシスト自転車はそもそも公道で走行すること自体が違法ですし、事故を起こした場合には、容易に『過失』が認定されることになります。」
悪質な場合、損害賠償金の額は大きくなるのか。
【荒川香遥弁護士】
「態様が悪質だからというだけで、損害賠償額自体が加重されるということはありません。わが国ではいわゆる『懲罰的損害賠償』は認められていません。あくまでも、原因行為と『相当因果関係』のある損害について賠償責任を負うことになります。相当因果関係というのは、社会観念にてらし、その行為から通常、その結果が生じるといえる関係があることをいいます。
過失の重さや行為の悪性の大きさは、あくまでも、刑事裁判の際に、量刑判断において考慮されることになります。
ただし、そもそも違法電動アシスト自転車はふつうの自転車よりスピードが出るので、事故を起こした場合の相手方の死傷の危険は大きくなります。したがって、事実上、損害賠償額が自転車事故の場合よりも高額になる可能性が高いといえます。
また、民法には過失相殺(722条2項)という制度があります。被害者側にも落ち度があった場合に、裁判所が裁量によって損害賠償額を減額できるという制度ですが、これが適用されない可能性があります。」
ちなみに、自転車事故における損害賠償額は高額化してきている。参考までに、過去の自転車事故の損害賠償額のデータをみると、[図表]のように、損害賠償金額が5,000万円を超えた事例、1億円近くに達した事例がある。
これらはあくまでもふつうの自転車による事故なので単純に比較することはできないが、電動アシスト自転車で事故を起こした場合、加害者は、これらのケースと同等か、場合によってはそれ以上の高額な損害賠償責任を負う可能性があるということになる。