「税務署にバレなければ大丈夫」は甘すぎる
経営者からすると、「汗水たらして一生懸命稼いだお金を税金で取られたくない」というのが本音だと思います。また、「その税金は何に使っているんだ?」「使い道は本当に適切なのか?」といった不信感があって納税したくないと考える方もいるでしょう。脱税をする人は後を絶ちません。
しかし、脱税手法の多くはすでに税務署の方々が把握しています。身近にはどのような方法があるのか見ていきましょう。
脱税の手口はさまざまですが、基本は「売上を少なくする(売上除外)」か「経費を水増しする」ことで利益を小さくするという考え方になります。
売上高から経費を差し引いたものが利益です。税率は利益の部分にかかるので、利益を小さくすれば税金が減るというわけです(【売上高-経費=利益】←この「利益」に対して税率がかかります)。
本稿では「売上を少なくする」パターンを紹介します。
飲食店などに多い「単純な売上除外」
まずは飲食店などの現金商売で行われる「単純な売上除外」の手口です。
■売上の一部を「なかったこと」に
店によっては売上伝票を手書きしていますよね。「単純な売上除外」では、実際には売上があるのに、申告書を書く際に帳簿上には売上を記載せず、売上伝票を捨ててしまうケースです。
例えばラーメン店で、1杯1,000円のラーメンを1日100杯売ったとします。するとこの日の売上は本来10万円ですが、帳面上では少なめに記載して「今日の売上は少なかった」と装うのです。
近年の例では、中国産うなぎを国産と偽ったうなぎ店(※すでに破産)があります。レジ内の現金を集計する際に一部を抜き取るなどして売上を小さく見せかけ、3年間で約1億8,900万円の所得隠しを行っていました。元社長はそのお金を主に高級クラブの飲食費に充てていたといいます。経営破綻した理由はここにあると思うのですが…。
■レジを改ざんする、常連客の売上のみを除外する
「単純な売上除外」には他にも手法があります。例えば、いったんレジで代金を入力して登録したあと、すぐにレジを改ざんして“売上をなかったこと”にするなどです。レジの種類によっては削除したログが残るので、そこからバレることもあります。
また、飲食店だと常連客が結構いるでしょう。古典的な手法として、「常連客の売上だけを除外する」というやり方もあります。一見(いちげん)さんが来ると「ひょっとしたらあの人、国税・税務署の人かもしれないな…」と注意しつつ、常連客の売上は付箋などに書いておき、売上の帳面には計上しないようにします。
<現金商売は売上除外が横行しやすいため、疑われやすい>
上記のような脱税は珍しくありません。ですから、これほどキャッシュレスの時代であるにもかかわらず「うちは現金払いのみです」と書いている店を見ると、私たち税理士はつい「怪しい」と思ってしまいます。売上を抜いているんじゃないの?と。もちろん現金払いのみでも、不正を行わずきちんと計上している店はありますよ。
以前、筆者の会社が懇親会で利用した店もまさに現金払いのみでした。参加人数が多かったのでその日の支払いは25万円ほどになったのですが、現金払いのみというのは当日発覚したことです。現金払いのみなら事前に教えてほしかったなと思いつつ、現金で持ち歩くような額ではないよな…とも思いました。そんな額を「現金で」と言われるとやはり疑いたくなってしまいます。このように、現金商売は疑いを持たれやすいので気を付けましょう。
■営業時間をごまかして売上の一部を「なかったこと」に
売上除外の手口として、他には「営業時間のごまかし」があります。これも珍しくありません。例えば、実態としては深夜12時以降も営業しているのに「営業していない」ことにして、売上をごっそりと抜くケースです。ここでも「現金払いのみ」が使われます。もし客がクレジットカードで支払えば、カードを切った記録から営業時間がバレてしまいますが、現金払いのみなら足はつきません。足がつかないようにするために「現金払いのみ」とするパターンもあるのです。
■そもそも「営業していなかった」ことに
「営業時間のごまかし」よりすごいのが、「1日単位の売上除外」です。営業していたにも関わらず「うちは今日営業していなかったことにしよう」と、特定の日の売上を“なかったこと”にしてしまいます。年末年始などに結構使われる手口です。
営業日ではないように見せかけても、例えば飲食店なら従業員に給料を支払わなくてはいけないのでタイムカードを切るでしょう。そういった記録からバレてしまいますし、やはり手を出してはいけません。
店舗そのものを「なかったこと」にする大胆な手口も
売上伝票を抜く⇒営業時間をごまかす⇒特定の営業日をなかったことにする、とだんだんひどくなっていますが、上には上がいます。それが「店舗丸ごとなかったことにする」ケースです。大胆な手口ですが、これも珍しくありません。飲食店などに多いです。
例えば、本当はA店舗・B店舗・C店舗・D店舗を経営しているにもかかわらず、A・B・C店舗だけは売上を申告して、D店舗だけは一切抜いてしまいます。
しかし、D店舗の経費をA・B・C店舗のほうに入れていたり、酒の仕入れでD店舗の住所が出てきたり、あるいは客用トイレのポップに「当グループはこれだけ展開しています!A店・B店・C店・D店」とD店まで隠さずに書いてしまったり、「D店〇〇周年です!」と張り出してしまったり…。こんなところから「なんだ、もう1店舗あるじゃないか」とバレてしまいます。
売上だけでなく「原価も」一緒に抜くケースも
ここまで、売上を除外する手口を紹介しました。しかし売上だけを除外するとなると、収支のバランスが崩れてしまいます。
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【例:飲食店(=仕入れのある商売)】
お酒を仕入れる→お酒が売れたのでその売上を抜く→売上はないのに仕入れが残ってしまう…
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そこでよく使われるのが「両建てで抜く」こと、売上も原価も両方抜くという方法です。これは売上と原価が紐づきやすい商売(ナイトマーケットや風俗店など)で行われます。支払われる側も確定申告をしていないケースが多いため、両建てで抜いてもバレづらいことはあるようです。
しかし、カード売上の割合から発覚したり、税務調査の前に行われる内観調査(実地調査)でバレたりするケースが多々あります。
「バレなきゃ大丈夫」でペナルティが課されれば本末転倒
以上、本稿では「売上を減らす」パターンでの脱税の手口について紹介しました。脱税の手口は身近にたくさんあることがわかります。しかし、上記はいずれも過去これまでに横行してきたもので、裏を返せば「税務署が把握している手口」です。「バレなきゃ大丈夫」と考えるのは危険です。身近だからこそ手を出さないように気を付けましょう。
国税の税務調査には大きな権力が備わっています。不正したために税務調査に入られ、脱税した分も含めまとめて税金を納めることになると大変な額になりますので、きちんと計画を持って申告と納税をしていくのが何よりもいい選択肢だと思います。
松本 崇宏
税理士法人松本 代表税理士
お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本
税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。
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