日銀はなぜ「市場介入」を行うのか?急激な「円安」「円高」が日本経済に与える「悪影響」と介入がもたらす「効果」とは【日銀出身のCFPが解説】

日銀はなぜ「市場介入」を行うのか?急激な「円安」「円高」が日本経済に与える「悪影響」と介入がもたらす「効果」とは【日銀出身のCFPが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日銀は、為替相場の変動によって日本経済が大きな悪影響を受けると予測された場合に「市場介入」を実施しています。それはどのように行われるのか。「円安・円高」局面での具体的な「市場介入」のしくみとそれによって得られる効果について、日銀出身のCFP・小松英二氏の著書『はじめての金利×物価×為替の教科書』(ビジネス教育出版社)から、一部抜粋して紹介します。

政府・日銀が「市場介入」を行う条件

日本に限らず、変動相場制を採用している先進国の通貨当局(政府や中央銀行)は、為替レートの大きな変動や、意図しない方向へ急激に進むときに、市場介入(外国為替平衡操作)を実施します。

 

日本経済は、これまで、円安局面や、円高局面を幾度となく経験してきました。円安局面、円高局面のいずれでも、政府・日銀は「変動相場制の為替レートは自由な取引のなかで決まる」といった原則のもと「為替介入せず」といった基本スタンスを続けています。

 

しかしながら、急激で行き過ぎた円高や円安が起きて自国経済に悪影響を及ぼす可能性があるときは、悪影響を抑えるために市場介入を実施しています。

 

具体的には、財務省が市場介入の実施を決定し、日銀がその代理人として市場介入事務(外貨資産の売り・買い)を行います。「急激で行き過ぎた円安」と、その逆の「急激で行き過ぎた円高」に分けて、市場介入のやり方を詳しく説明します。

急激で行き過ぎた「円安」となった場合の市場介入

急激に「円安」が進むと、原油や原材料などの輸入コストが急上昇します。それにつれて国内物価も上昇し、国民の消費活動等に深刻な影響が生じる懸念があります。

 

この場合、財務大臣は市場介入の実施を判断し、日銀に対して外国為替市場で「円買い・ドル売り」の市場介入を行うよう指示します。記憶に新しいところでは、日銀は2022年の9月と10月に、急激な「円安」に対抗するため、相次いで「円買い・ドル売り」の市場介入を行いました。

 

市場介入によりドルよりも円の需要が増え、ドル/円レートは「円高・ドル安」方向に修正され、安定することが期待されます。このとき介入(ドル売り)に使うドル資金は、「外貨準備高」から支出されます([図表1])。

 

[図表1]「円安」に対する外国為替市場への市場介入(外国為替平衡操作)

 

外貨準備高は、通貨当局が市場介入に用いる資金であるほか、通貨危機などにより他国に対する外貨建て債務の返済が困難になった場合などに備える公的な準備資産です。日本の外貨準備高は、2022年3月末時点で中国に次ぎ世界第2位で約1兆3,560億ドルに達しています。

急激で行き過ぎた「円高」となった場合の市場介入

反対に急激で行き過ぎた「円高」が進むと、輸出型企業にダメージを与えます。輸出先での価格が上昇するからです。これにより、目先の景気悪化が心配されます。経済の成長パワーを減退させる可能性もあります。

 

この場合、財務大臣は市場介入の実施を判断し、日銀に対して外国為替市場で「円売り・ドル買い」の市場介入を行うよう指示します。これにより、円よりもドルの需要が増え、ドル/円レートは「円安・ドル高」方向に修正され、安定することが期待されます([図表2])。

 

[図表2]「円高」に対する外国為替市場への市場介入(外国為替平衡操作)

 

このとき介入(ドル買い)に使う円資金は、財務省が管轄する「外国為替資金特別会計」から支出されます。円資金を貯めているのではなく、その都度、国庫短期証券(国債の一種)を発行して金融市場から調達します。市場介入で買ったドルは「外貨準備高」に組み入れられ、米国債などで保有されます。

 

ここまで説明してきたのは、各国の通貨当局(政府および中央銀行)が独自の判断で行う「単独介入」のケースです。

 

世界経済の状況により、他国を巻き込んだ「協調介入」を行うこともあります。複数国間の通貨当局(政府および中央銀行)の思惑が合致し、同じタイミングで実施することができれば、市場介入の効果を高めることができます。

 

 

小松 英二

CFP® FP事務所・ゴールデンエイジ総研

代表・経済アナリスト

 

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