(写真はイメージです/PIXTA)

2022年9月下旬から10月にかけて国際市場が大混乱に陥った英国。それは当時国債の大規模な売り手であった"LDI"を巻き込んだ「LDIショック」を引き起こす。本稿では、ニッセイ基礎研究所の福本勇樹氏が、LDIショックの実体、そしてそこから我々が学べる教訓について解説します。

「流動性リスクへの対処」が十分でなかった点が問題

LDIショックは金利上昇とそれに伴うボラティリティ拡大に起因するものだが、LDIでは金利上昇もボラティリティ拡大も担保拠出が求められる方向に寄与することになる。そのため、市場環境の急変から担保となる資産が足らなくなれば、LDIを採用している年金基金は追加的に担保(主に現金)を別途調達する必要が出てくる。

 

流動性の高いファンドの売却や資金調達などで必要な担保拠出に機動的に対応できた年金基金もあったが、規模の小さいところを中心に多くの年金基金では機動的な担保調達が叶わず流動性危機に見舞われた。

 

これらの年金基金は、金利リスクやレバレッジの削減を企図して、普段は取引量の少ない超長期債などの売却によって現金を確保しようとしたため、英国債市場の混乱をさらに増幅させることにつながった。

 

LDIの場合、金利上昇局面では負債の現在価値が低下するため、負債に比べて小さい資産規模でLDIを実行すると積立水準の改善につながることが多い。LDIを採用している年金基金にとって金利上昇そのものは本質的に不利益ではなく、どちらかといえば歓迎すべきことだった。

 

しかしながら、金利上昇に伴い担保拠出に必要となる現金等のバッファが十分ではなかったということである。つまり、問題の本質は負債の金利リスクへの対処そのものにあるのではなく、金利上昇に伴って発生する流動性リスクへの対処が十分ではなかった点にある。

 

この金利上昇時の年金基金の流動性リスクについては、一部の専門家から注意喚起はなされていたものの、残念ながら事前に業界全体での対策はなされてなかった。

 

この反省を踏まえ、2023年3月には少なくとも2.5%の金利ショックに耐えられるような対応が求められるようになった。2023年6月には、LDIを含めた金融システム全体を対象とするストレステストが開始されている。

 

これまで銀行や保険会社に関する個別のストレステストは実施されていたが、金融システム全体への影響を分析する目的で実施されるのは初の試みである。さらに、年金基金と金融機関の間では現金以外の担保活用などの動きも広がっている。

「LDIショック」から得られる教訓

LDIショックから得られる教訓として悩ましいのは、金利リスクに起因して金融システムに関連したリスク(システミックリスク)イベントにまで至る際には、直接的に金利リスクの影響を受ける部分に留まらず、それがきっかけとなって流動性の枯渇などの事態にも波及しながら問題を大きくしていく点にある。

 

金利リスクそのものは金利スワップ等を活用すれば機動的に対処することはできるものの、LDIショックに限らず、個々の投資対象やリスクを見ているだけでは不十分な事例が増えてきている。

 

他の投資対象やリスクにもどのように波及していくのか、全体への影響を俯瞰しながら分析していく必要性がますます高まっているといえる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月4日に公開したレポートを転載したものです。

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