預金者が決済期限内に「債務の支払い」をできなかった場合
考えられる問題の1つめは、預金者が債務を負っていて、システムエラーにより決済期限に間に合わなかった場合です。この場合には、一応、預金者の債権者に対する債務不履行責任(民法415条)が問題となります。
期限内に振込が行われなかった場合、債務の支払いが遅れた「履行遅滞」の状態が発生するからです。
民法415条は債務不履行責任が発生する要件として、債務者の「帰責性」を要求しています。しかし、金銭債務の場合、不可抗力で債務者に帰責性のない場合であっても、債務不履行責任を免れることができません(民法419条3項)。システムエラーで振込ができなかった場合であっても、債務不履行責任が発生することになります。
預金者としては、いったん口座から引き出したうえで、債権者が口座を持っている金融機関の窓口で振込を行うことが考えられます。
なお、預金者の取引先である債権者側では、期限内に支払いを受けられなかったことによる損害発生の可能性が考えられます。たとえば、入金されるお金をアテにして何らかの投資をしようとしていたが、機会を逸してしまったような場合です。これは、次に紹介する「預金者が『取引』による利益を逃した場合」と同じ問題なので、そちらで解説します。
預金者が「取引」による利益を逃した場合
もう1つ考えられるケースは、預金者が「取引」による利益を逃した場合です。預金者が投機性のある「物」を取引する際に代金の支払いを銀行振込で行おうとしたが、システムエラーによって振込ができず、その物を得られなかった場合です。
その後、その物が値上がりし、そのタイミングで売却すれば利益を得られたはずだったということで、売却益について、損害賠償を求めることが考えられます。
今回は、振込ができないのは「他行あて」のみです。したがって、復旧までどれだけ時間がかかるかにもよりますが、代金振込によって支払って物の引き渡しを受け、その直後に値上がりして転売する、といったケースは、実際にはそれほど多くはないとみられます。典型的なのは、株式の購入代金の払い込みやFXの決済でシステムエラーが生じたような場合でしょう。
しかし、今回も、そのようなケースがまったくないとは断言できないので、一応、説明しておきます。
たとえば、三菱UFJ銀行の「振込規定」には、以下の場合には同行は責任を負わないと定めています。
「相当の安全対策を講じた」は、銀行側(銀行と全銀ネット)に「過失がなかった」ということと同じ意味です。
そこで、銀行側に過失がなかった場合と、過失があった場合のそれぞれについて説明します。