1997年、アマゾンが驚異的なスピードで成長する一方で、アップルは倒産の危機に直面していた。しかし、23年後、アップルは時価総額2兆米ドルを突破し、米国企業初の快挙を成し遂げた──。ハーバード大学デザイン大学院の上級リーダーシップ・プログラムで企業エグゼクティブ向けにコミュニケーションスキルを教える、コミュニケーション・アドバイザーのカーマイン・ガロ氏の著書『Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方』(文響社)から抜粋して紹介する本連載。今回は、アップルの企業経営史上、最高のカムバックストーリーについて紹介する。
アップルのビジネスは、「人々が仕事を片づけるための箱を作ることではありません」とジョブズは続けた。「私たちのコアバリューは、情熱を持った人々は世界をより良い場所に変えられる、と私たちが信じていることにあり、私たちが作っているツールは、まさにそのような人々のためのものなのです」
ジョブズがスピーチを行った時点では、成功はけっして約束されたものではなかった。その夏のはじめ、彼は10年前に買収したアニメーションスタジオ、ピクサーの経営陣を前に、不安を吐露していたぐらいだ。ジョブズは彼らに、アップルを救うことはできないかもしれないが、それでも挑戦しなければならないと話した。
ジョブズは本気で、アップルが存在することで、世界はより良い場所になると信じていた。会社のミッションが、ブランドをもう一度活性化させたいという情熱の原動力となっていた。そのミッションのもとに人々をまとめることができれば、生き残りの可能性は高くなる、と彼は語った。
アマゾンが、企業経営史上、最高のサクセスストーリーのひとつだとしたら、アップルは、企業経営史上、最高のカムバックストーリーである。
ジョブズが社員に向けてスピーチを行った日から数えて23年後、アップルは時価総額2兆米ドルを達成した初の米国企業となった。ミッションは大事なのだ。
ジョブズ流「パワーポイントのスライドに使うフォント」
ガイ・カワサキは、かつての上司であるスティーブ・ジョブズから、メッセージをシンプルにすることの重要性について多くのことを教わったという。
たとえば、人の心をとらえるミッションは、わずかな単語数で表現できることを知った。では、ミッション・ステートメントはどのぐらい短くすべきか?
ジョブズの答えは、「190ポイントのフォントでパワーポイントのスライドにおさまる長さ」だ。ほとんどの人が、1枚のスライドに小さな文字で単語を詰めこみすぎている。カワサキを含むプレゼンテーションデザインの専門家は、30ポイントより小さい文字をスライドに載せてはいけないと断言する。
スティーブ・ジョブズは、そのはるか上を行った。30ポイントを優に超す大きなフォントを使ったのだ。なぜか?
カワサキによれば、「大きな文字は読みやすいから。単純な話です」という。そうなのだ、読みやすいのだ。どんなによく練られたミッションでも、字が見えなければ何の意味もない。
ジョブズが大きなフォントを使ったのには、戦略的な理由もあった。自分自身に、より少ない単語で、要点を伝えることを強いるためだ。余計な単語を削ぎ落とすことで、残された文章に力が宿る。
1997年、スティーブ・ジョブズは会社の芯となるパーパスを明らかにしたミーティングで社員たちに、「自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えている」と語った。
その時のスライドに書かれていたのは、「Hereʼs to the crazy ones.(クレイジーな人たちに乾杯) 」たったこれだけだった。
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