1997年、アマゾンが驚異的なスピードで成長する一方で、アップルは倒産の危機に直面していた。しかし、23年後、アップルは時価総額2兆米ドルを突破し、米国企業初の快挙を成し遂げた──。ハーバード大学デザイン大学院の上級リーダーシップ・プログラムで企業エグゼクティブ向けにコミュニケーションスキルを教える、コミュニケーション・アドバイザーのカーマイン・ガロ氏の著書『Amazon創業者ジェフ・ベゾスのお金を生み出す伝え方』(文響社)から抜粋して紹介する本連載。今回は、アップルの企業経営史上、最高のカムバックストーリーについて紹介する。
倒産の危機に陥っていたアップル
アマゾンは猛スピードで成長し、1997年の株式公開に向けて好位置につけていた。時を同じくして、シアトルから南へ800マイル(約1287キロ)のところでは、ビジョナリーな起業家が率いる会社が倒産の危機に瀕していた。
自らが興した会社、アップルにスティーブ・ジョブズが12年ぶりに復帰した時、同社は経営難に陥っていた。
ジョブズは、アップルの経営陣が会社に深刻なダメージを与えたこと、会社が流血するがごとく大赤字を抱えていることを診て取った。アマゾンが人材の採用を急ぐ一方で、アップルは人員を削減せねばならなかった。同社は従業員の3分の1以上にあたる、4000人を解雇した。
ジョブズは赤字の原因を突き止めるべく、究明を進めていった。そして問題は、美しくデザインされたコンピュータ製品を作り、顧客を喜ばせるという「りんごの芯」 、つまりアップルのコア・ミッションを裏切ってきたことにあると考えた。
アップル製品のうち3割は、優れた、まさに「宝石」であるものの、残りの7割はお粗末で、少数の質の高い製品からリソースを奪い取っている、と分析した。
1997年10月2日のCNBCのインタビューでジョブズは、「トップラインで正しいことをすれば、ボトムラインはついてきます」と述べている。彼は、正しい戦略、正しい人材、正しい文化が揃っていれば、最終的な利益は後からついてくると信じていたのだ。
ジョブズは、リーダーとして自分が注力すべきことは、製品戦略とコミュニケーション戦略であると明言した。アップルの社員は共通のミッションのもとに結集し、その価値観を再確認しなければならないとし、そのために自分に課された仕事は、社員と顧客が進むべき道を見つけることができるように、「茨と藪を切り拓いていくこと」だと断言した。
アップルの社員が必要としていたのは、「ペップトーク[訳注:相手を励まし、やる気を引き出すコミュニケーション術]以上のものであった。
自分たちの仕事が何か大きな意味を持ち、日々の仕事がそのミッションを支えていることを知る必要があったのだ。つまり、「意味」を渇望していたのである。
ジョブズが社員に向けて行ったスピーチ
ジョブズは、CNBCに出演する数日前の9月23日、非公開の社内ミーティングを開き、社員に向けて語りかけた。彼は8週間前にアップルのCEOに復帰したばかりであったが、自分が何をすべきか理解していた。
それは、ミッションとマントラでチームを奮い立たせることであった。
「私たちは、優れた製品と優れたマーケティングという基本に立ち返ります」とジョブズは切り出した。
ジョブズはまず、アップルのブランドには価値があることを社員に思い出させた。「ナイキ、ディズニー、コカ・コーラ、ソニーと並び立つブランドです」
しかし、たとえ秀でたブランドであっても「人々に必要とされ、活力を保つ」ためには、投資と手入れを怠ってはならない。よってジョブズは、ブランドを再び偉大なものにするためには、「スピードやフィード、MIPS[訳注:コンピュータが1秒間に実行できる命令の数]やメガヘルツ」について語るのを止めなければならない、と説いた。顧客はそんなことに関心を持たない。彼らが大事にするのは、自分自身の目標や希望、夢なのだ。
そして、修辞法を活用した一連の問いを投げかけた。「アップルとは何者か(who)? 私たちは何を目指しているのか(what)? 私たちはこの世界のどこにうまく適合するのか(where)? 私たちは、お客様に何を知ってもらいたいのか(what)?」と。
《最新のDX動向・人気記事・セミナー情報をお届け!》
≫≫≫DXナビ メルマガ登録はこちら