(※画像はイメージです/PIXTA)

中小企業で先代経営者から後継者へと事業が引き継がれるとき、後継者には相続税または贈与税がかかる。そこで最近、後継者が「節税」できる有力な手段として注目を集めているのが「事業承継税制」である。税負担が事実上「ゼロ」になる反面、後継者には事業継続の努力が求められる。事業承継税制の基本的なしくみ、利用条件や留意すべき点等について、税理士・黒瀧泰介氏(税理士法人グランサーズ共同代表)に聞いた。

事業承継税制は何のための制度か

まず、事業承継税制はそもそもどのような制度なのか、説明します。

 

中小企業において、先代経営者から後継者へと経営が引き継がれる場合、「自社株式」とともに引き継ぐことになります。その際、後継者には、自社株式について相続税または贈与税がかかります。

 

すなわち、先代経営者が亡くなったことによって自社株式を引き継ぐ場合は「相続税」、生きているうちに自社株式を引き継ぐ場合は「贈与税」がかかることになるのです。

 

業績が好調で資産を多く保有する優良な企業であるほど、自社株式の相続税評価額は高くなり、後継者にかかる税金は重くなります。しかも、自社株式は市場で売却してお金に換えることができないので、納税資金を別に準備しなければなりません。

 

しかし、事業承継税制を利用すれば、実質上相続税・贈与税は「ゼロ」になります。ただし、その代わり、後述するように、後継者は事業を承継した後、一定の条件を守らなければなりません。これが、利用するかどうか迷いを生じるところです。

 

なお、事業承継税制には「一般措置」と、2024年3月までに申請すれば利用できる「特例措置(特例事業承継税制)」があります。このうち、特にメリットが大きく、主に利用されているのは特例事業承継税制です。また、特例事業承継税制には申請期限の延長の動きもあります。そこで、以下では特例事業承継税制に重点を置いて解説します。

事業承継税制は「納税猶予→条件つき免除」の制度

事業承継税制は相続税・贈与税の負担を「実質ゼロ」にするものといいました。しかし、事業承継税制の適用を受ければ直ちに納税義務を免れるというわけではありません。いったん相続税・贈与税の納税義務が全額「猶予」されます。そして、その後に後継者が所定の条件をみたした場合に初めて納税義務を「免除」してもらえるのです。

 

後継者に課された条件をごく簡単にいえば、自社株式の大半を保有し続け、かつ経営者(代表)として従業員の雇用を守りながら事業を継続し、次の代へと事業承継をすることです。

 

ただし、後継者が途中で亡くなった場合は、納税義務が免除されます。また、事業の継続に関する条件は「承継から5年以内」と「承継から5年経過後」とで異なります。

 

◆承継から5年以内の条件

まず、承継から5年以内の主要な条件は以下の通りです。また、これらの状況について「毎年」報告しなければなりません。

 

【承継から5年以内の主要な条件】

・後継者が代表者であり続けること

・後継者と同族関係者の株式の議決権の割合が50%超を維持し続けること

・承継後5年間、従業員の雇用を平均で8割確保すること(雇用確保要件)

・資産保有型会社等(ホールディングス等)にならないこと

・M&A(自社株式の譲渡等)や解散をしないこと

・資本金・資本準備金を減少させないこと

 

これらは中小企業にとってかなり厳しい条件です。たとえば、不祥事等によって代表の地位を退くことを余儀なくされたら、その時点で事業承継税制を利用できなくなり、直ちに相続税・贈与税を支払わなければなりません。

 

ただし、特例事業承継税制では「雇用確保要件」が緩和されています。すなわち、やむを得ない事情があれば、その旨を報告すればよいことになっています。

 

また、経営難でやむなくM&Aや解散をした場合にも、救済措置があります。納税義務自体は免れませんが、税負担が軽減されます。M&Aまたは解散のときの自社株の評価額(経営難に陥って低くなっている時点の株価)をもとに相続税・贈与税の額を計算し直し、その額を納税すればよいことになっています。

 

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