定年まであと4年…「リタイアしたら人生を楽しみたい」
松井健三さん(仮名)は61歳の会社員。地方都市の老舗衣料品メーカーの営業マンとして働いています。60歳を機に年収が3割以上減り、現在は380万円ほど。同じ年の妻はパートで働き、年100万円ほどの収入があります。
あと4年で年金生活が始まるとあって、その後の老後生活について妻と話すことが増えていました。60歳で受け取った退職金は1,000万円、それ以外の貯金が500万円ほど、65歳からもらえる年金の見込み額は夫婦で月19万円程度です。
松井さんはあと4年、会社員を続けながら少しでも貯金を増やして、65歳で完全にリタイアしたいと考えていました。というのも、松井さんの父親が亡くなった年齢は72歳。自分の人生の残り時間もそれほど長くないかもしれない。少しでも楽しい時間を過ごしたい……そう思ったのだそう。
ところが、そんな老後の夢に暗雲が。きっかけは、県外で一人暮らしをする次男(25歳)から数ヵ月ぶりに届いた、1通のLINEでした。
次男が大学時代に借りた奨学金で老後計画が崩壊危機
次男からのLINEの内容を要約すると、以下の通りでした。
『就職先がブラック企業でメンタルを病んでしまった。辞めざるを得ず、今は失業保険(雇用保険の給付金)とわずかな貯金、単発バイトでやりくりしている。でも、年金や国民健康保険の負担もあって生きるだけで精一杯。奨学金の返済はとても無理だ。そもそも自分の意志で借りたお金ではないし、親として返済してほしい』
当時、マイホームの住宅ローン返済もあった松井さんは、子ども2人の大学費用として奨学金を借りることに躊躇しませんでした。長男、次男ともに貸与型の奨学金で月10万円を借り入れました。奨学金は子どもたちの口座に振り込まれましたが、使い道は松井さんが管理。各々の学費、教科書、大学までの交通費、食事代などを補填していたのです。
大学進学は子ども自身のため。当然、返済も本人たちの責任だと考えていた松井さんでしたが、突然その借金が自分の元に回ってくることに。
「親としてお金が十分用意できなかったことは申し訳ない。でも、大学進学自体、あの子が望んだことですよ。なのに『自分の意志で借りてない』はないんじゃないですか。自分のための借金でしょう? 返済の猶予や減額返済の制度もあるようなので、それを使って自分で返すように言ったんですが」
しかし、そんなことをしても結局支払わなければならない。自分がいつ精神的に健康になるかわからないのに、借金という重荷まで背負わせるのか……。そう言い返してきた次男と、電話口で激しい言い合いになったといいます。
結局、親として無責任な部分があったことは否めない、まずは健康を取り戻すことが先決だと、しばらくの間は立て替えて返済することを決めたといいます。
「早く健康になって、定職についてくれるといいんですが。もし、そうならなかった時には400万円以上を私たちが返さなければならなくなります。それに、あの子が一人暮らしできない状況になれば、我が家に帰ってくることになるでしょう。そうしたら生活費もかなり増えてしまう。ひとまず65歳で仕事を辞める計画は白紙ですね……」
