現在のインフレ要因は「景気の加熱」ではなく…
生徒:近頃はガソリン価格が高騰し、食料品価格の上昇も続いています。さまざまなモノやサービスが値上がりしたことで、生活が苦しくなってきました。私たちの生活はこれからどうなるのでしょうか?
先生:日本では2022年から物価の上昇が続いています。インフレになったのかもしれません。総務省によれば、消費者物価指数は2023年に、前年同月比で3%も上昇しました。
生徒:私は50代。役職定年になってお給料は減っているのに、物価が上がって生活が苦しくて…(涙)。インフレになると金利も上がるのでしょうか?
先生:「2%インフレ」を目標としていた日銀の金融緩和政策で、住宅ローン金利は低かったのですが、日銀が部分的に金融緩和政策を修正したため、住宅ローン金利も上がりつつあります。しかし、現在のインフレは、景気が加熱したことが原因ではありません。海外からの輸入原料が値上がりし、物価が上がったことが原因です。ですから、賃金上昇を伴う本格的なインフレが実現するときまで、金利は上がらないでしょう。
金利上昇でも…即座に家計がピンチになるとは限らないワケ
生徒:それでも、ゼロ金利が永遠に続くわけではありませんよね。いつかは金利が上がることになりますが、そのときは困ってしまいますね…。
先生:金利が上がっても、即座に家計がピンチになるとは限りません。金利上昇で、金利の支払いは増えるかもしれませんが、株式や投資信託が値上がりするからです。
生徒:私もNISA口座で投資信託を買っています。
先生:インフレはモノの値段が上がることですが、逆に見れば、お金の価値が下がるということです。そういう観点で考えると、住宅ローン負担は軽くなります。借入金が値上がりすることは決してありませんから。
生徒:なるほど、そう考えると、繰上げ返済できるお金は資産運用に回したほうがいいですね。
インフレに強い不動産だが、郊外・地方の物件には注意が必要
先生:問題は現預金です。2%のインフレになると、今年1,000円で買えたものが、来年は1,020円出さないと買えないことになります。10年後には1,200円になります。単純に計算すると、現在1,000万円の預金は年2%のインフレが10年続けば820万円、20年続けば670万円の価値へ目減りしてしまいます。今後もインフレが続けば、現預金だけを持っている人は、どんどん貧しくなっていくということです。
生徒:そうなると、金融資産や不動産への投資を増やすほうがよいのでしょうか?
先生:金融資産については、そうともいえないのです。インフレが騒がれ出した時点で、株式市場の相場は、将来のインフレを織り込んだ価格水準まで上がっているはずです。今から買うのでは遅すぎます。また、個別企業の株価は、企業が将来稼ぐ利益を、市場金利にリスクプレミアムを加算した期待リターンで割り引いて計算されています。利益が増えることが予想されると株価は上昇しますが、金利が上昇することが予想されると株価は下落します。結果として、インフレによって金融資産が上昇するか下落するか、わかりません。
生徒:不動産はどうでしょうか? これまでずっと値上がりが続いてきましたが…。
先生:一般的に、不動産はインフレに強い資産だといわれます。これは自宅も含まれます。そのため、インフレが本格化すると、賃貸よりも持ち家が有利になるといわれます。インフレが進むにつれて家賃の上昇が家計を圧迫する可能性もあります。しかし、過去と将来では、同じインフレでも状況が違います。最も大きいのは日本の人口減少です。持ち家を購入したいという若者が減り続けているのです。不動産が売れなくなってくると、価格が下がってくるはずです。都心部で人気のある立地であればいいですが、郊外や地方の不動産は、注意すべきでしょう。
岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士
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