【45歳以上の自己都合退職者、約3割】独立希望の中年サラリーマン〈社会保険がらみ〉のハードルに困惑…「社畜のままでいるべきか」

【45歳以上の自己都合退職者、約3割】独立希望の中年サラリーマン〈社会保険がらみ〉のハードルに困惑…「社畜のままでいるべきか」
(画像はイメージです/PIXTA)

会社員として長年勤務してきたものの、このまま定年まで同じ会社にいて本当に幸せなのか…。そのように悩むアラフィフ世代は少なくありません。しかし、安易に転職・独立するのは危険です。本記事では会社員の退職金のほか、転職や独立にともなう社会保険料の問題など、お金にまつわる注意点を見ていきます。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

転職・独立は「自己都合退職」に…退職金額は大丈夫?

生徒:私も50歳を過ぎ、会社員生活も30年になろうとしています。定年まで会社員として働くべきでしょうか、それとも転職や独立も視野に入れるべきでしょうか?

 

先生:定年は会社都合退職ですが、転職や独立は自己都合退職です。その場合、退職金が不利になることがあるので注意が必要です。

 

生徒:うちの会社には早期退職優遇制度があって、50歳以上で勤続10年以上の社員が定年前に退職すると、割増退職金がもらえるそうです。

 

先生:それなら不利になることはなさそうですね。厚生労働省の調査によると、大学卒の退職金の平均は、定年退職だと2,000万円でしたが、早期優遇では2,300万円でした。しかし、50代前半は会社員人生で給料がピークになる時期ですから、一度きりの退職金を多めに受け取っても「退職するほうが得」とは限りませんから、注意が必要です。

 

注:大学・大学院卒、管理・事務・技術職 出典:厚生労働省「平成30年 就労条件総合調査」
[図表1]退職者1人の平均退職給付額注:大学・大学院卒、管理・事務・技術職
出典:厚生労働省「平成30年 就労条件総合調査」

 

生徒:いますぐ辞めようとは思っていませんが、管理職のまま会社員人生を終わってしまうのは…。もう一度、お客様と対面する現場の営業の仕事で勝負したい気持ちがあります。転職で、再び営業職に就くことができたらと思っています。

 

先生:なるほど。営業の仕事への意欲があるのですね。

45歳を過ぎてからの自己都合退職者は、およそ3割

生徒:1つの会社に勤め続けた会社員が、50代で退職するケースはどれくらいあるのでしょうか?

 

先生:厚労省の調査では、従業員1,000人以上の会社で、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者のうち、定年退職だったのは6割程度。残る4割のうち3割は、自己都合で退職していたそうです。

 

生徒:45歳を過ぎてから3割の会社員が自己都合で退職しているというのは驚きです。しかし、中高年が転職した場合、給与水準は維持できるのでしょうか?

 

先生:厚労省の調査によれば、50代の転職者でも、2割から3割の人が増加しています。とはいえ、高収入の仕事を見つけることは簡単ではありませんから、周到に準備したのでしょう。

 

出典:厚生労働省「令和2年 転職者実態調査の概況」
[図表2]中高年の転職後の賃金変化 出典:厚生労働省「令和2年 転職者実態調査の概況」

フリーランスは「不安定さ+社会保険料負担」に懸念もあるが…

生徒:転職だけでなく、会社に縛られずに独立するのも魅力的です。現場の営業で楽しく仕事をするためにも、フリーランスとしてさまざまな会社から仕事を受注するのが理想です。しかし、フリーランスだと収入が不安定になりやすいでしょうね。

 

先生:問題は収入だけでなく、会社員時代より社会保険料の負担が増えるという点です。会社員の場合、健康保険は勤務先の健康保険に加入し、保険料も原則として会社が半分払います。会社員が扶養する家族は、保険料負担なしで保険証を持つことができます。

 

生徒:あまり意識しませんでしたが、かなりお得ですね。

 

先生:ですが会社を辞めた場合、退職後も最長2年は同じ健康保険を任意継続できるものの、保険料は全額自己負担になります。任意継続が終わって国民健康保険に加入すると、自分だけではなく、扶養していた家族それぞれにも保険料負担が生じることになります。

 

生徒:健康保険料の負担が重くなるということですね。年金保険料はどうなるのでしょうか?

 

先生:会社員は「第2号被保険者」として厚生年金に加入していて、年金保険料も健康保険料と同様、会社が半分払っています。基礎年金に厚生年金が上乗せされ、将来の年金受給額も多くなります。

 

生徒:なるほど…。

 

先生:しかし、フリーランスになると「第1号被保険者」となり、国民年金に加入し、年金保険料も全額自己負担となります。ちなみに、2023年度は毎月1万6,520円です。会社を辞めた後の加入期間には厚生年金がなくなりますから、定年まで勤める場合より、将来の年金受給額は減ることになります。

 

生徒:扶養する家族への影響はどうですか?

 

先生:会社員の方の配偶者が専業主婦(夫)なら、国民年金の第3号被保険者となり、年金保険料を支払わずに基礎年金を受給できます。しかし、会社員から自営業に変わった場合は、配偶者も同じく第1号被保険者になりますから、配偶者の分の年金保険料を支払わなければいけません。

 

[図表3]転職・独立時の社会保険~会社員の夫と専業主婦の妻の場合~

「やりたい仕事」を追求するのもまた、人生の醍醐味

生徒:フリーランスは社会保障では不利なのですね…。ハードルが高い!

 

先生:おっしゃるとおりです。社会保険の観点から考えると、会社員であり続けることはとても有利です。しかし、社会保険だけでは幸せになれるわけではありません。長年勤めた会社を辞めて独立しますと、収入が不安定になる懸念もありますが、一方で、定年に関係なく、長く働くことができるようになります。たとえば、退職前に社会保険労務士や中小企業診断士といった国家資格を取得することも「収入ゼロ」の回避策になるでしょう。

 

生徒:そうですね。生涯にわたって「やりたい仕事」を継続するのは中高年の夢のひとつです。管理職のまま定年退職を迎え、そこから独立するのはむずかしそうですが、だからといって、いきなり独立するのも不安です。転職はどうでしょうか。

 

先生:転職を考えるなら、自分の「強み」や「弱み」をよく知ることが大切です。これまでの仕事での成功体験や失敗体験を紙に書き出したり、配偶者や家族などに評価してもらったりして、キャリアや強みの棚卸しをするとよいでしょう。

 

生徒:ありがとうございます。お話を聞いて、一瞬「社畜のままでいるべきか…」思いましたが、将来の独立を視野に入れ、転職活動を始めたいと思います! まずは転職サイトへ登録してみます。

 

 

岸田 康雄

国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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