30年前の平均年収は472万円だが…会社に「飼い殺される」日本のサラリーマン、給与が増えない根本原因【エコノミストが解説】

30年前の平均年収は472万円だが…会社に「飼い殺される」日本のサラリーマン、給与が増えない根本原因【エコノミストが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本人の平均給与はバブル崩壊直後の1992年時点で472万円でしたが、2018年は433万円(直近は443万円※国税庁:令和3年分民間給与実態統計調査)と、30年前から減少しているのです。なぜ日本人の給与は増えないのか。『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』著者で第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏が解説します。

日本の企業が従業員に「儲けを分配しない」ワケ

賃金が上がらない理由②労働者の流動性が低い

では、なぜ労働分配率が低いのか? 

 

それには、新卒一括採用・終身雇用という日本の安定しすぎた労働環境が影響していると考えられます。言い換えると、労働者が同じ会社に長く勤めがちで、労働条件に多少の不満があっても、なかなか会社を辞めないことが大きな要因になっているのです。このように労働市場の新陳代謝が悪いことを、「労働者(労働市場)の流動性が低い」と言います。

 

企業の視点で単純に考えれば、人件費を下げた分だけ利益は上がります。しかし、賃金を低くしすぎると、人が集まらない、あるいは辞めて別の会社へ行ってしまいますから、妥当な相場に落ち着きます。

 

しかし日本の場合、賃金が上がらなくても従業員が簡単には辞めないので、企業は賃金を上げるモチベーションが低くなるのです。企業は収益が上がっても、株主配当にも配慮しなければならないし、設備投資や現預金にも回さなければならない。そんななかで従業員の昇給は後回しにされやすい。つまり、労働者の流動性が低いことで、「釣った魚に餌をやらない」状況が可能になってしまうのです。

 

また、労働者側から見た場合にも、日本では同じ会社で長く働いたほうが恩恵を受けやすい、という事情があります。

 

[図表2-3]
[図表3]『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)より抜粋

 

賃金プロファイル(図表3)を見ると、50歳くらいから60歳頃にピークがあり、逆に若い時分には賃金は低く抑えられていることがわかります。

 

年功序列で賃金が上がっていくのは慣行であって、実際の企業への貢献度に必ずしも見合っているとは限りません。若いうちはどれだけ活躍して会社に貢献しても、給与は低めに抑えられてしまいます。この制度下では、よほど良い転職をしない限りは、途中で辞めたら損、ということになってしまいます。

 

しかも日本では、税制においても勤続年数が長いほうが有利で、「勤続20年」を境に退職金の控除率が変わってきます。

 

このように、日本の雇用をめぐる環境全体が、労働者の流動性の低さを作り出してしまっているのです。

 

 

永濱 利廣

第一生命経済研究所

首席エコノミスト

 

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※本連載は、永濱利廣氏による著書『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか

日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか

永濱 利廣

講談社

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