前回は、相続税の大幅な節税が可能となる「小規模宅地等の特例」について概要を解説しました。今回は、具体的にどのようなケースが適用に該当するのか、また該当しない場合の対策などについて見ていきます。

普通のサラリーマンが高額な相続税を払うハメに

それでは、自宅に小規模宅地等の特例を適用する相続税対策のやり方を、具体例を挙げて説明していきましょう。

 

Aさんは40代半ばの会社員の男性です。Aさんの母は70代、父は5年前に亡くなっています。Aさんは一人っ子で兄弟はいません。

 

父が亡くなった一次相続の際、自宅の土地と建物は母が相続しました。自宅は、バブル期に株や不動産業などで資産を増やした父が、東京郊外に購入した400㎡の土地と、その上
に建てた自宅です。現在の地価は1㎡あたり30万円になっています。ちなみに、バブル期に保有していた株式や自宅以外の不動産は、バブル崩壊とともに手放し、今残っている財産は自宅のみです。

 

一次相続から間もなく、Aさんは母の自宅の横に敷地の半分200㎡を利用して、自分たち家族のマイホームを建てました。子どもが大きくなってその時に暮らしていた賃貸マンションでは手狭になってきたことや、高齢になった母を近くで見守りたいなどの理由からでした。

 

さて、このAさんの場合、母が亡くなって二次相続が起こると、母の自宅を相続する際に小規模宅地等の特例が使えません。Aさんは母の自宅には住んでいないからです。

 

すると、30万円/㎡×400㎡=1億2000万円という高額な評価額になってしまいます。
これに自宅建物の評価額が2500万円、現預金の500万円が加わって、相続財産は1億5
000万円ほどになります。改正後の相続税は2860万円です。

 

Aさんは会社勤めで収入もごく平均的な額ですから、これだけの相続税を支払う余裕はありません。500万円の現預金を相続しても到底納税額にはおよびません。

 

もし小規模宅地等の特例が使えれば、自宅敷地の評価額は2400万円になるので、相続財産は5400万円となります。それに課税される相続税は220万円ですので、相続した現預金の枠内に収まります。やはり、どうにかして小規模宅地等の特例を使えるように、今から準備をしなくてはならないでしょう。

「親と同居している事実」を作れれば簡単だが・・・

では、小規模宅地等の特例を使えるようにするには、どういった選択肢があるかを考えてみます。これには、大きく2つの方向性があります。

 

まず1つは、Aさんが母と同居している事実を作ることです。Aさん家族が母の自宅に引っ越して、母と一緒に暮らせば、話は一番簡単です。母の自宅がAさんにとっても自宅になるので、二次相続の際に小規模宅地等の特例の対象になります。

 

しかし、Aさんはともかく、Aさんの妻は母との同居を望んではいません。現状のように母の自宅の横にマイホームを建てることも、Aさんが妻を説得してようやく譲歩してもらったくらいですから、現実的に同居は無理です。

 

二世帯住宅であれば親との同居と見なされるので、今ある2つの家を壊して二世帯住宅に建て替える方法は考えられます。平成25年度の税制改正で相続税における二世帯住宅の定義が緩和されました。以前は、親世帯と子世帯が入り口は別々でも中でつながっていて、建物として1つの構造でなければなりませんでしたが、今は本棟と離れのような構造でも、廊下などで物理的につながっていればOKということになっています。

 

ただし、この方法をとるには多額の改築費用を用立てなければなりません。改築の規模や内容にもよりますが、仮に1000万円かかるとしたら、相続税の納税額と大差なくなってしまいます。現実問題としては二世帯住宅への建て替えも難しいでしょう。

本連載は、2013年12月2日刊行の書籍『ワケあり不動産の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ワケあり不動産の相続対策

ワケあり不動産の相続対策

倉持 公一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ワケあり不動産を持っていると相続は必ずこじれる。 相続はその人が築いてきた財産を引き継ぐ手続きであり、その人の一生を精算する機会でもあります。 にもかかわらず、相続人同士が財産を奪い合うといったこじれた相続は後…

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