結婚しても変わらない…出社したくなくて“布団でモゾモゾ”
その後、盛岡で啄木の両親と同居するかたちで新婚生活を送るも、経済的に頓挫。紆余曲折を経て、23歳のときには東京の新聞社で職を得ることになる。もちろん、それで張り切って家族のために働くような啄木ではない。
早く目が覚めてもなかなか会社に行きたがらず、11時くらいまで布団のなかでモゾモゾしては、こんな葛藤をしていた。
「社に行こうか、行くまいかという、たったひとつの問題をもてあました。行こうか? 行きたくない。行くまいか? いや、いや、それでは悪い」
5日も仮病で休むことがあれば、遅くまで好色本を読んで、寝坊してしまうこともあった。
そして、こんなふうに後悔するのである。
「何という馬鹿なことだろう! 予は昨夜、貸本屋から借りた徳川時代の好色本『花の朧夜』を3時ごろまで帳面に写した――。ああ、予は! 予はその激しき楽しみを求むる心を制しかねた!」
啄木は好色本を夜中の3時まで、夢中になってノートに写して寝坊したのだという。一体、何をやっているんだか。
そんな啄木は、働かないわりには給料を前借りし、それでも足りずに親友に借金をしまくっていた。一体何に使っていたのかといえば、遊郭で女遊びをしたり、読みもしない洋書をカッコつけて買ったりして使ってしまうのであった。
遊郭通いについては、新聞記者として東京に来てから、半年で13、14回も通っている。どうやら給料が入って少しでもお金に余裕ができると、遊びに使っていたらしい。しかも妻や母に一切仕送りをしていなかったという。おいおい……。
そんな啄木の悪行がなぜ知られているかといえば、自身で日記に書き連ねているからだ。妻にわからないように、ローマ字で書かれており、『啄木・ローマ字日記』として、岩波文庫から出版されている。自分の俳句が後世で高く評価されたがゆえに、まさかヤバいことを書きまくった日記までもが公になるとは、思いもしなかっただろう。
啄木が労働から逃げ続けたことを思うと、この有名な歌もまた違った意味で心に響く。
「はたらけどなお我が暮らし楽にならざりじっと手を見る」
手を見ている場合ではないが、現実逃避のなかで啄木は数々の名作を残した。
真山 知幸
著述家、偉人研究家
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