(※写真はイメージです/PIXTA)

脱税というと大企業や芸能人の話と思われがちですが、最近はギャラ飲み女子やパパ活女子をターゲットにした税務調査が増えています。一般個人にも身近になりつつある無申告・脱税の問題について、松本崇宏氏(税理士法人松本 代表税理士)が解説します。

「脱税」は大企業や芸能人だけの話ではない

 

脱税とは、税金が課される要件があるにもかかわらずそれを故意に隠し、課税を不正に免れることです。たとえば売上を除外したり、経費を水増ししたりすることで所得(いわゆる利益)を少なくして税金を圧縮する行為です。

 

また、不正行為ではないものの、本来は申告する義務があるにもかかわらず税金の申告書を提出していない「無申告」も、結果的には脱税の状態です。

 

他方、脱税とは一字違いの「節税」は、法律が予定している範囲内で税金の負担を少なくする行為です。たとえば必要経費を適切に計上して利益を圧縮するなどです。節税は法律的に認められた行為ですし、余分な税金を払う必要もないので、積極的に利用していくべきです。お近くの税理士に相談するとよいでしょう。

 

脱税というと、ニュースで「〇〇会社が何十億円の脱税」と報道されたり、「芸能人のXXさんが数億円の申告漏れ」など芸能人絡みの話で聞いたりすることが多いので、別世界のことと思われがちです。確かにサラリーマンの方々だと、給料は源泉徴収されていることもあって脱税の概念はほぼないでしょう。しかし最近では、身近にやっている人がいるかもしれない「ギャラ飲み」や「パパ活」で無申告や脱税が摘発されています。

「ギャラ飲み女子」は税務署の狩場

ギャラ飲みについて、Wikipediaでは次のように説明されています。

 

「ギャラ飲み(ギャラのみ)は、飲み会に参加し、その対価の謝金を受け取る行為に対する俗称。」(Wikipediaより引用、2023年9月29日閲覧)

 

次の項目には、「2022年2月、(中略)派遣されるキャストの脱税疑惑が相次いでいることが報道された」と衝撃的な内容が書かれています。

 

実際私たちの税理士法人にも、ギャラ飲みで稼いだ女性から「確定申告をしたい」という問い合わせや、すでに税務調査が来てしまって「すみません、税務署との間に入ってくれませんか」という依頼がここ数年でものすごく増えています。

 

私たちはナイトマーケット業の確定申告・税務調査の件数が顕著ですので、ギャラ飲み女子の方々にとって相談しやすいというのもあるかもしれませんが、それを加味しても増えていると感じます。

「ギャラ飲みの無申告」はこうしてバレる

そもそも、国税局や税務署になぜ無申告・脱税がバレるのか?と気になるのではないでしょうか。バレる理由はたくさんありますが、ギャラ飲みの場合は次のような経緯でバレます。

 

<ギャラ飲みアプリ運営会社から芋づる式に発覚>

ギャラ飲みの場合は、ギャラ飲みのマッチングアプリ運営会社での調査によって把握する、というのが挙げられます。まずギャラ飲みアプリの運営会社に国税局の調査が入り、その会社を調べるなかでキャストたちの支払い情報を把握します。国税局に戻ってからキャストたちの申告も調べることで、芋づる式に無申告者がわかるという流れです。アプリの運営会社が適切な納税をしていたとしても、キャストの申告状況を個別に調べることで連鎖的にバレてしまうというケースです。

 

<SNSのキラキラ投稿から発覚>

キャストのなかには承認欲求の強い方もいるでしょう。SNSの「今日はここでディナーをいただきます」「エルメス、たくさん持ってます♪」といったキラキラ投稿を、国税局の方々は結構チェックしていますし、何ならキャプチャもしています。

 

<第三者のタレコミで発覚>

他には、税務署に対する情報提供(いわゆるタレコミ)です。私たちはあくまで税理士法人ですが、たまに税務署と勘違いして問い合わせを受けることがあります。

 

つい先日も「すみません。このインスタアカウントの人がベントレーに乗っていて、高級なところでごはんを食べていてこういうブランドを持っていて(略)、この人、絶対税金払ってないと思うんです。捕まえてください」というメールが来ました。私たちは税理士なので捕まえるといった対応はできないものの、国税局に用意されている通報窓口をご案内しました。

 

また、同じ職場の方々が「この人、急に持ち物がよくなった。なんか怪しい」とSNSのアカウントを探していったら「あっ、このアカウントに違いない」と行きついてしまい、タレコミに至るケースも結構あります。確定申告をしていれば納税という点ではまったく問題ない話ですが、無申告の方は要注意です。

ギャラ飲みの無申告者は「追徴課税額が大きくなりやすい」傾向

ちなみに税務署は、調査対象を決めると事前にいろいろ調べます。たとえば銀行口座の動きやクレジットカードの使用履歴です。調査対象が普段の仕事では月収20万円、年収にして300万円だとすると、その人が頻繁にエルメスなどを買えるようには思えません。そのお金はどこから出てきたのか?という話になりますので、カードの利用明細を見られることもあります。

 

ギャラ飲みで稼いだお金は振り込みで支払われることがほとんどですので、通帳に入金記録が残ります。ギャラ飲みで得ている収入、つまりは売上が記録されることになります。

 

ギャラ飲みの経費というと、移動のための交通費や連絡するための電話代、一部の衣装代などが考えられますが、収入を超えるような経費がかかるとは到底思えません。

 

また、ギャラ飲みのキャストたちは確定申告に対する知識を持っていない人も多いです。そのため、たとえばタクシーの移動代を現金で払った領収書や、一部の被服費などの「経費として認められるかもしれない領収書」そのものを捨てている方もいるでしょう。

 

ですから、税務署がギャラ飲みで稼いでいる無申告の女性のもとに税務調査に入った場合、その女性の収入は通帳を見ればすぐにわかります。ただし、その収入に見合う経費の証明はほぼない、あるいは経費があったとしても領収書がないから立証できないので、必ず追徴課税を取られます。

 

しかもギャラ飲みの場合、かなり高額な収入を得ているキャストもいます。高額を得ていて申告をしていないとなれば、税務署からすると効率よく税金を回収できるわけです。商いが小さいところより大きいところのほうが効率的なので、税務署としても税務調査に入りたくなるものでしょう。

 

ギャラ飲みキャストの厄介なところは、源泉徴収をしていない点です。ギャラ飲みの運営会社とそのキャストの間に雇用関係ないので、運営会社から支払われる報酬というのは一般的に源泉徴収されていないのです。

 

源泉徴収がない上に申告もしていない、つまりキャストが税金を1円も収めていない状態で税務調査に入られると、本来納めるはずの税金(本税)にプラスして追徴税額が課されます。源泉徴収をしていればある程度の部分は先に納税できていたかもしれませんが、源泉徴収がない分、追徴税額が大きくなりやすいという特徴があるので、事前に対策をしておいたほうがよいでしょう。

一方、パパ活なら「現金手渡し」だからバレないと思いきや

最近では「パパ活」という言葉も耳にするようになりました。パパ活について、Wikipediaでは次のように説明されています。

 

「パパ活(パパかつ)は、『パパ』と呼ばれる裕福な男性と食事や映画鑑賞、買い物などのデートをして、その報酬として金銭を受け取る活動である。」(Wikipediaより引用。2023年9月29日閲覧)

 

パパ活のギャラはお手当とも呼ばれます。アプリやサイトを通して出会うという点ではギャラ飲みと似ていますが、パパ活のお手当はアプリ運営会社から支払われるのではなく、パパから直接、現金で手渡しされることが非常に多いです。通帳に記録が残らないので、国税局にはバレない、税務調査は来ないのでは?と考えられがちですが、パパ活女子にも税務調査が入った事例があります。

 

パパ活でパパになるような人は、経営者や個人事業主など、ある程度のお金を自由に動かせる高額所得者が多いでしょう。事例ではまずパパの会社に税務調査が入りました。パパ活女子への調査ではなかったのですね。

 

パパの会社の怪しい支払い経費について確認したところ、パパ活の支払いを経費にしていたことがわかりました。税務署に支払先の確認などをされるなかでパパ活女子にたどりつき、そのパパ活女子の無申告がバレた、という流れでした。

 

このパパは何をどう判断してパパ活の支払いを経費にしてしまったのか、このパパ活の経費を経理担当者や顧問税理士になんと説明したのか、気になるところですが…。

税務調査が入る前に修正申告を

以上、今回はギャラ飲みやパパ活を例に脱税・無申告について解説しました。

 

余談ですが最近、コロナ給付金の不正受給がバレて逮捕される方が増加しています。給付金を受け取るために嘘の申告をしていた方がたくさんいたのですね。

 

「“税金もかからないし、代わりに申告してあげるよ”と詐欺まがいの誘いを受けて給付金をもらってしまった、あとあと見たらデタラメな申告だったから書類を修正してほしい」という依頼も増えています。

 

税務調査が入る前に修正しておいたほうが傷は浅いです。申告をしていない方はもちろんのこと、不正をしてしまった方も、なるべく早く対応することをおすすめします。

 

 

松本 崇宏

税理士法人松本 代表税理士

お客様からの税務調査相談実績は、累計1,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴税額ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。

 

税理士法人松本

税務調査特化税理士法人として全国6ヵ所(渋谷、錦糸町、新宿、横浜、柏、大阪)にオフィスを構え、“成功報酬型”税務調査サポートを提供する税理士事務所では国内No.1の規模を誇る。国税局に勤めていた、いわゆる「国税OB」が複数名所属。税務調査相談実績は累計1000件以上。一般業種より税務調査が厳しいと言われる風俗業界の税務に10年以上特化し、追加徴税額ゼロ円の実績も多数。

 

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