うまい話には概して裏がある・・・
以前から「土地の有効利用による相続税対策」は常に声高にとなえられてきました。確かにこの手法によって相応の節税効果が生じるのは事実です。しかし、概してうまい話には裏があります。それらの話には有効利用の実施により生じる大きなデメリットが無視されています。
ここではまず、誰も語ろうとしないこの点を考えていくことにしましょう。
最初に皆さんに質問します。地主さんが時価6000万円の更地の上に、相続税対策をかねて4000万円でアパートを建てました。そしてその後、間もなく相続が発生したため、その不動産を換金することになりました。では、この土地建物はいくらで売れるでしょうか。
結論としては、1億円に大きく届かないケースがほとんどです。一般的には「6000万円程度」といったところでしょう。
理由はこうです。まず「時価6000万円の更地」は、更地だから6000万円の値がつきました。したがってこの値をつけた人は「アパートを撤去して更地にしてくれれば、6000万円で買う」と言うはずです。これでは話になりません。
アパートに向いていない場所なら「低利回り」は当然
さて、アパートという収益物件としてこれを見る買主は、このアパートの年間収入(満室前提・諸経費を無視)を売買価格で割り算した「利回り」を計算します。つまり、収益性を見るというわけです。
仮にこのアパートの年間収入(満室前提)が500万円であるとしましょう。「遊ばせておくより相続税対策をかねて」といった理由で建てたようなアパートの収入はほぼこの水準です。するとこのアパートの売値が1億円であれば利回りは5%(500万円÷1億円)。この利回りでは、この物件は市場で見向きもされません。
実は、今日の市場で流通する収益物件の利回りは8〜10%、古くなったアパートで12%前後です。そこで市場で売れる可能性のある8%の利回りを確保しようとすれば、売値を6250万円(500万円÷8%=6250万円)にする必要があります。10%の利回りを要求されれば半値の5000万円です。
つまり不動産は、その効用が最高度に発揮された状況でなければよい値では売れません。さしてアパートに向いていない場所に建てれば家賃を多く取れず、それが低利回りという形で売値に跳ね返ってきます。
長期間における家賃収入で建築費を回収できるか?
ここで言いたいのは「アパートはおいそれと換金できない(換金はできるが大損をする)」ということです。ただし建築後30年以上経過し、その建築費のほとんどを家賃収入で回収した後での売却であれば問題ありません。そう古くなっていない段階で売るのは具合が悪いというだけです。
ところで、ここでの論旨は「アパートを建てるな」ではありません。先の例で言えば、施主は「5%程度」の利回りで納得しています。「この程度の家賃が入れば資金繰りはOK! さらには相続税や固定資産税の節税効果が大きい。だからこれで十分」と考えています。その考え方は正しいのです。
ただし、アパートの流通市場で「5%」は通用しません。したがってこれを売ろうとすると、売値は6000万円程度までドカッと下がってしまいます。要するに売らないでこれを持ち続け、長期間における家賃収入で建築費を回収してしまえばいいわけです。
以上のとおり、アパート建築の最大のデメリットは、建てなければ右から左に売れた更地であったのに、建築してしまったがために、その後、数十年間も売れなくなってしまうことです。納税や遺産分割等に要する金融資産がかなり不足するような場合に、換金にぴったりの更地の上にわざわざアパートを建てるのは自殺行為です。アパート建築を検討する際にはゆめゆめこの点を忘れてはなりません。
逆に納税資金等に困らないのであれば、空室発生といった事業リスクを十分に考えつつ、前向きに検討する余地があるように思います。