起業の生存率からスタートアップ投資のリスクを推し量る~10年で生き残るのは10分の3という現実に投資家はどう向き合うべきか~

起業の生存率からスタートアップ投資のリスクを推し量る~10年で生き残るのは10分の3という現実に投資家はどう向き合うべきか~
(写真はイメージです/PIXTA)

2022年11月に岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。日本が諸外国よりも出遅れている「スタートアップ投資」を加速させることを目的としていますが、そもそもスタートアップのリスクについてよくわからないという人も多いでしょう。本稿では、ニッセイ基礎研究所の清水勘氏が、「スタートアップ投資」のリスクと、投資家に求められる要件について解説します。

5―日本のベンチャーキャピタル

それでは、今日の日本に、この投資に適った投資家が米国と比べてどれだけ存在するのであろうか。ベンチャーキャピタル団体に所属する会員企業数を例にとると、本稿執筆時点で全米ベンチャーキャピタル協会には407社、日本ベンチャーキャピタル協会には149社の登録が確認できた。

 

また、全米ベンチャーキャピタル協会の2023年イヤーブックによると、2022年に4,064社5のベンチャーキャピタルが米国に存在し、その内、直近8年に資金調達活動が確認されたものは2,718社となっている。

 

これに対する日本側のデータは公開情報では入手できなかったが、経産省によれば2022年10月時点で3,782社6の大学発ベンチャーが存在する。

 

社数だけでみれば日米互角ととれなくもないが、対象となる範囲や定義が定かではないことから、数だけで投資家の練度を論評することは難しいだろう。

 

その一方で、投資額については日米間で歴然とした開きがある。内閣官房のスタートアップ5ヵ年計画によれば、2021年の投資実績で、米国が36.2兆円、17,100件であるのに対し、日本の2,300億円、1,400件と7、額にして約150倍、件数にして約12倍の開きがある。

 

社数よりも投資額の方が、日米の実態をより強く反映しているものと思われる。この差からも、一足飛びに日本が米国にキャッチアップできるとは考えにくい。

 


5 “2023 The NVCA Yearbook”, National Venture Capital Associations.

6 「令和4年度大学発ベンチャー実態等調査」経済産業省

7 「スタートアップ育成5か年計画」内閣官房

6―おわりに

本稿では、起業の生存率から類推されるスタートアップ投資のリスクと、そこから求められる投資家の要件について考えてみた。冒頭で述べた通り、この統計は広義の起業を対象とするもので、スタートアップに絞ったものではない。

 

それでも5年後、10年後生存率が各々約5割、約3割と低い。文献にもよるが、スタートアップは4件に3件8、或いは10件に9件9は失敗するという報道もある。

 

生存率が低くなるほど生き残りを発掘する難易度が高くなり、投資家のスキルが結果を左右することになる。スタートアップ5ヵ年計画では、公的資本のみならず個人の資金まで巻き込んでリスクマネーを捻出しようとしている。

 

そのリスクマネーを活かすも殺すも投資家の腕次第だ。ただ、スタートアップ5ヵ年計画でも記されている通り、国内ベンチャーキャピタルは育成の途上であり、頼みの綱は、まだ日本での実績が少ない10海外ベンチャーキャピタルというのが現状だ。

 

そう考えると、2027年度のスタートアップ投資額を現在の10倍を超える10兆円規模にするというスタートアップ育成5か年計画がいかに野心的であるかが伺われる。

 

今後、スタートアップ投資への関心はますます高まることになるが、その大きな期待と同様にリスクも非常に高いということ、リスクマネー供給には特定の要件を備え経験に長けたプロの投資家が欠かせないこと、を十分に認識した上で、今後の日本におけるスタートアップ投資の発展を見守っていきたい。

 


8 “The Venture Capital Secret: 3 Out of 4Start-Ups Fail” Sept. 20, 2012, The Wall Street Journal

9 “Why startups fail, according to their founders” September 26, 2014, FORTUNE

10 「スタートアップについて P35 海外からのリスクマネーの流入の現状」経済産業省 第4回経済産業政策新機軸部会資料より

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月15日に公開したレポートを転載したものです。

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