起業の生存率からスタートアップ投資のリスクを推し量る~10年で生き残るのは10分の3という現実に投資家はどう向き合うべきか~

起業の生存率からスタートアップ投資のリスクを推し量る~10年で生き残るのは10分の3という現実に投資家はどう向き合うべきか~
(写真はイメージです/PIXTA)

2022年11月に岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。日本が諸外国よりも出遅れている「スタートアップ投資」を加速させることを目的としていますが、そもそもスタートアップのリスクについてよくわからないという人も多いでしょう。本稿では、ニッセイ基礎研究所の清水勘氏が、「スタートアップ投資」のリスクと、投資家に求められる要件について解説します。

4―ふたつの壁を乗り越えるために必要とされるスタートアップ投資家の資質

では、このふたつの壁を克服する上で投資家はどのような要件を備えるべきか。ここでは、主に4つの要件について述べたい。

 

何はさておき、投資家は生き残る蓋然性の高い有望な投資先を発掘しなければならない。

 

その為には、(1)数多ある起業ビジネスの中から有望な投資候補を囲い込める“ネットワーク力”と、(2)投資候補の中からポテンシャルの高いビジネスを選別する“目利き力”が不可欠となる。

 

ITの投資比率が高い米国のベンチャーキャピタルでは、創業者にシリコンバレー出身者が多い。米国を代表するベンチャーキャピタルの創業者、故ドン・バレンタイン氏もそのひとりだ。

 

半導体企業で培った経験と知見を活かし70年代にビデオゲーム会社アタリ社を発掘し、そこで知り合ったスティーブ・ジョブス氏が興したアップル社の初期の出資者となった。

 

1999年、まだスタートアップだったGoogleに投資し、その5年後の2004年にそれを約100倍にして投資を回収している3。彼らに共通する点は、その道でしか培えない人脈を有し(ネットワーク力)、技術やサービスを誰よりも熟知し、その将来性を先見できること(目利き力)だ。

 

特定の業界や技術分野で長年の実務経験があるだけでなく、そこでの実績も厳しく問われる。日本はデジタル人材において量・質の両面で諸外国に見劣りすると言われており4、この様な人材はまだ少ない。

 

仮に、そのような人材がいたとしても、シリコンバレーからベンチャーキャピタルに転身するような垣根を越えた労働移動は今の日本ではまだ少ない。業界独自のネットワーク力と卓越した目利き力というふたつの要件を取り上げただけでも、日本にスタートアップ投資が根付くまでの道のりは長そうに思える。

 

また、発掘した事業に高いポテンシャルがあったとしても、そのままでは投資目線に適った成長軌道に乗らない可能性が残ることを統計は示唆している。

 

中でも、スタートアップは、ビジネスモデルから商品・サービスまで、まだ何もテイクオフしていないこともあり、成長軌道に乗るまでのハードルは高い。その為、投資家には、(3)主体的に投資先を後押しする“指導力”が必要となる。

 

ただ、どんな後押しでも、投資家の独りよがりでは創業者が賛同せず、前に進まない。従って、事業の成長に対する期待や利害が一致するような互恵的な成長戦略を組み立てながら創業者と切磋琢磨できることも重要なスキルとなる。これは協調を重んじ議論を避けがちな日本人が苦手とする領域でもある。

 

最後に、投資先の低い生存率が原因で投資が道半ばで終わらない為にも、投資家にとり(4)倒産リスクを吸収し得る“高いリスク許容度”は必須の要件となる。

 

投資家に十分な自己資本があればそれに越したことはない。そうでない場合は、投資組合等の受け皿を作り、機関投資家や事業会社等から出資を募り、十分なリスク許容度の下でハイリスク投資を実践する。

 

投資組合を通じた投資は、ベンチャーキャピタルの典型的なビジネスモデルであり、本来の目的は、自らの知見やスキルを駆使して獲得した投資利益を出資者に分配する見返りとして高い報酬を出資家から受け取ることにあるが、それ以外の目的として投資そのもののリスク許容度を高めるという側面も併せ持つのである。

 


3 “Sequoia Capital Quietly Doles Out Google Shares Worth $1.3 Billion” Jan. 17, 2005 The Wall Street Journal

4 「令和4年度年次経済財政報告 第3章第3節 デジタル化を進める上での課題」内閣府

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年9月15日に公開したレポートを転載したものです。

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