自治体によっては「医師以外」が理事長になることも可能
テクニック9 後継者不在の病院はM&Aを選択肢に入れて検討する
後継者不在の問題を抱えている病院については、廃業よりもM&Aを検討しましょう。
ちなみに、病院の理事長には、原則として医師免許を持つ者しかなれませんが、自治体によっては、要件を満たせば医師以外でも理事長になれるところがあります。
平成26年3月5日付けで厚生労働省医政局指導課より『医師又は歯科医師でない者の医療法人の理事長選任に係わる認可の取扱いについて』という通知が出されました。
この通知の中で、昨年調査したところによると、「一部都道府県において、理事としての経験年数が一定期間あることや財務状況が黒字であることなどの、満たすことが必須な要件や、そのうち一つでも満たすことが必要な複数の要件などを設定するといった運用が見受けられた」と記され、「各都道府県においては、このような要件を設定して門前払いするのではなく」とし、「都道府県医療審議会の意見を聴いたうえで、当該認可について判断するよう、必要に応じて現在の運用の改善を検討されたい」としています。その一例として、理事のうち半数を外部の医者とし、事務長が長い間、医院の運営に携わってきたなどの条件での認可があります。
しかしながら、外部の医師を入れると理事会が混乱しやすいなどの理由から、これを避けるケースが大半です。「外部の医者は入れたくないから、後継者になってくれる医師を探してきてほしい」といって頼んできた方もいました。
病院M&Aのパターンと譲渡価格の概要
日本でもM&Aが一般化してきましたが、医療業界ではまだまだ少ない状態です。ここでは病院M&Aについて、簡単にポイントをまとめておきます。
●M&Aとは
M&Aは、「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略です。企業の合併および買収の意味です。親子承継とは違い、第三者への承継として行われます。
病院のM&Aは、承継する病院が個人事業か医療法人か、医療法人のなかでも持分ありかなしかなどの条件によって、いくつかのパターンがあります。ここでは基本の形だけ紹介します。
まず、病院が個人開業の場合です。このパターンは、現理事長であるA院長と新理事長になるB院長との、個人間での資産のやり取りになります。A院長が所有している病院の土地.建物、医療設備などをB院長がお金で買い取ればよく、中古の家を売買するのと同じイメージです。
次に、持分ありの旧医療法人の場合です。このパターンは、医療法人の持分のやり取り(出資持分譲渡)になることがほとんどです。B院長が金銭で医療法人の持分を買い取ることで譲渡が成立します。
法人を丸ごと引き継ぐことになるため、承継前の診療に関する責任や税務処理、労務管理に関する責任、カルテや従業員との雇用関係なども、原則として継続されることになります。企業のトップが交代するイメージです。
●病院の譲渡価格
病院の譲渡価格は、個人開業の場合は「固定資産の時価」に「のれん代」を加えた価格が基本です。旧医療法人の場合は「出資持分評価」+「のれん代」となります。
のれん代というのは、病院の将来性や収益性を加味した営業権のことです。将来的に収益が見込める病院は、のれん代が高くなります。
●税務の取り扱い
個人開業の場合は、A院長のもとには病院関連資産の売却代金が入ってきます。これは譲渡所得となり、譲渡益に応じて譲渡所得税がかかります。もし1000万円で買った土地が1500万円で売れたら、プラスの500万円に対して税金がかかります。利益が出なければ税金はかかりません。
旧医療法人の場合は、A院長のもとに出資持分の売却代金が入ってきます。これも譲渡所得となり、譲渡益に応じて譲渡所得税がかかります。出資額が300万円だったものが3000万円で売れたら、差額の2700万円に対して税金がかかります。