(※写真はイメージです/PIXTA)

「建設費不足を補うため、建物の階数を減らす」という高層ビル建築現場の事例がニュースになっている。タワーマンション建設においても今後はこのようなケースが増えてくるかもしれない。見えるはずの眺望が得られないということであれば、タワマンに暮らす意味はない。このような計画途中での設計変更は受け入れがたい問題だが、なぜこのような事態が発生しているのか。実情を解説する。

アフターコロナ時代に迷走する「再開発事業」

北海道の主要都市・札幌で高層ビル建設に絡むトラブルが発生している。その現場は、JR札幌駅南口の敷地面積1.7haにわたる再開発事業用地だ。この事業は地上35階建て・延床面積21万m2という北海道屈指のビッグプロジェクトとして話題となっていたが、昨今のマスコミ報道で事業計画が大幅に縮小されることが明らかになった。一体何が起こったのか。

 

原因は建設資材の高騰と人材不足だ。再開発計画の概算見積はコロナ禍前に出されたもので、現状を踏まえ再見積したところ建設費不足が判明した。そのため当初の計画より階数を低くするなど、設計変更による建設費削減を検討しなければならないという。

 

同様のトラブルは全国各地で予定されている再開発事業でも起こりうることだ。これらの再開発事業には、地権者住戸などの居住用フロアを併設したいわゆるタワーマンション(以下、タワマン)計画が含まれているケースも少なくない。

原因は日本の「買い負け」なのか?

札幌ばかりでなく、日本全国の再開発事業は軒並み「建設費不足」に悩まされている。その根本的な原因は何なのか。

 

◆ウッドショック

コロナ禍においては、日本に限らず世界のあらゆる企業が従業員のテレワーク化を推進してきた。それに伴い、自宅に「もう一部屋、仕事用のスペースがほしい」というニーズが高まったため、新築住宅市場は世界的に活況を呈している。住宅用建材は飛ぶように売れ、在庫不足になると当然のごとく価格は高騰する。これが「ウッドショック」なのだが、輸入木材に頼りきりの日本は海外との価格競争に負け気味で、国内で使用する建材の調達に苦戦している。

 

◆アイアンショック

木材と同様、住宅ニーズの高まりで建材としての「鉄」の需要も高まっている。鉄は住宅ばかりでなく、ビルや工場などの建設資材としても使用される。日本は鉄についても大半を輸入に頼ってきたが、木材と同様に「買い負け」しているため国内供給が低下している。

 

◆半導体不足

コロナ禍による半導体工場操業停止の影響で、半導体を内蔵するエアコンや給湯器などといった住宅設備の供給量が制限されてしまったため、これらの価格も大幅に高騰している。日本の家電メーカーは海外競合メーカーとの半導体争奪戦で押され気味となっているため、国内生産の住宅設備であっても納品が数か月先と長くなっていることも事実だ。

 

◆燃料価格の高騰

建設現場で使用する重機の燃料や工具の電気料金の高騰も建設費に大きく影響する。とくに電気料金は、国内原子力発電所の稼働制限に加え、ロシアからの天然ガス輸入停止も相まって想定外の値上がり率を更新し続けている。

日本人がタワマンに住めなくなる日

2023年7~9月期の消費者物価上昇率(2.83%)が示すように、日本はインフレ真只中である。この数値は今後徐々に鈍化すると見込まれているが、円安傾向は当分の間続くことが予測される。なぜなら、欧米諸国ではこの30年間で平均賃金が1.5~2倍上昇しているにもかかわらず、日本は「横ばい」状態から抜け出せていないからだ。

 

コロナ禍が明けて海外旅行が解禁となり、多くの日本人がハワイなどの海外リゾートへいそいそと出かけて行ったが、「ラーメン1杯5000円」という現実に直面し、海外との経済格差を改めて痛感している。

 

その傾向はハワイに限らず、日本国内においても徐々に表れてきている。2008年のリーマンショック以後、アジア人富裕層グループの不動産爆買いツアーなどで都市部のタワマンが買い荒らされた時期があった。その後アジア人投資家の影は薄くなったが、入れ替わりで欧米系不動産投資家の動きが顕著になってきた。

 

先日竣工したばかりの都内再開発高層ビル内には、オフィス・商業施設・ホテルのほか、販売価格200億円超のラグジュアリー・マンションも登場した。この価格は周辺の新築マンション相場と大きく乖離しているため、日本人を相手にしていないことは明らかだ。都心部は海外富裕層のために造られた高額不動産で溢れかえることになるだろう。

「新規分譲で建設費捻出」の目論見がご破算に

前述の札幌駅南口再開発のように、計画当初は高層タワー計画であったものを低く“縮める”ことで資金繰りするというスキームは全国的に広まっていくかもしれない。そこから見えるはずの夜景や花火を楽しむために購入を検討したものの、それらがまったく見えなくなるケースも起こりうる。タワマン購入希望者の意欲は大きく削がれてしまうだろう。

 

そうなると困るのは建設ディベロッパーばかりではない。タワマン用地を提供した多くの地主(=地権者)にとっても大問題だ。

 

ディベロッパーによる用地買収は、概ねの収益見込みを立てた上で土地を買収している。地権者もまた新しく建つタワマンの中に自宅や店舗を確保できる約束の上で土地を提供している。莫大な建設費の捻出については、タワマンの新規分譲収入に委ねている部分も多い。

 

ディベロッパーは建物縮小による建設費削減の前に、施工業者や地権者に多大な負担がかかることも考えなくてはならない。タワマンは簡単に縮められないのだ。

外国人が買い漁る、日本の不動産

北海道の駅前再開発事業で、建設費縮小のため建物の階数を減らすという事例が発生している。地方都市の再開発現場では軒並み建設費不足が叫ばれていることは事実だ。その原因の一つは円安で、建築資材の買付合戦で日本は窮地に立たされている。日本にある不動産自体も外国人の富裕層に買い漁られている始末だ。

 

高層ビルやタワマン建設の背景には多くの所有権者が介在し、彼らにとって建物の床面積が縮小されることは死活問題だ。増床による新規分譲計画も崩れてしまえば竣工前に破綻することも考えられる。すべては再開発事業を請け負うディベロッパーの手腕にかかっている。

 

 

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