(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年頃からメディアなどで騒がれている中国の「不動産バブル崩壊」。たしかに昨年以降、中国からは資本が流出傾向にあると、フィデリティ・インスティテュートの首席研究員・重見吉徳マクロストラテジストはいいます。今後の中国の景気や不動産市況と、中国の“日本化”(≒日本のような長期停滞や緩やかなデフレ継続となるのか)についてみていきましょう。

中国は“本来の社会主義”に回帰している

中国は日本化するか、不動産価格を下支えできるかという議論のときに、よく言われることは、次の2点です。

 

1.中国は、意思決定のスピードが早い。

2.中国は、日本や米国の経験から学んでいる。

 

筆者もこの両方について同意します。

 

レイ・ダリオを持ち出すと、上記1について、ダリオは「政策担当者は危機発生当初、緊縮、貨幣発行、デフォルト/債務再編、富の分配のポリシー・ミックスについてバランスを欠く傾向にある。納税者は債務危機や失業の拡大を引き起こした債務者や金融機関の救済に反対し、政策担当者は今後のモラルハザードを恐れることで、政策担当者は救済に二の足を踏む」と述べています(→筆者による抄訳)。

 

たしかに、日本では住専(住宅金融専門会社)への公的資本投入が国民の反対に遭って紛糾したことで(→1996年の『住専国会』)、その後の政権は公的資本の投入に逡巡しました。

 

他方の米国の対応は早かったものの、それでも、『不良債権買取プログラム』(TARP)は、有権者の意思を忖度した連邦議会によって一度否決されました。

 

その点、中国は集団指導体制から一極体制にシフトしているように見え、早い意思決定が可能でしょう。

 

しかし、上記2について考えれば、いかに指導部が日米の債務危機から学んでいても、トップに対し、不動産市況や金融機関の不良債権の状況についてつまびらかに説明するかどうかはわかりません。

 

それは中国にかぎらず、どの組織でも同様ですし、日本でも当時の大蔵省や日銀は、政権中枢に対して「自分たちでなんとかするからご心配は無用」と繰り返していました。

 

加えて、現在の指導部は、1970年代後半から始まった改革・開放政策による資本主義化やこれにともなう経済格差の拡大への行き過ぎを是正しようとしているようにみえます。

 

言い換えれば、本来あるべき社会主義に立ち戻りつつあるようにみえます。そうした姿勢は、『共富(共同富裕)』の方針や、大手テクノロジー企業や教育産業への規制強化などに表れているでしょう。

 

こうした本来の社会主義への回帰と、資本主義の象徴ともいえる不動産への投機に踊った人たちや彼らに融資を行うことで利益を得た金融機関の積極的な救済との整合性の欠如が避けられる可能性もあるでしょう。

 

総じて、中国の金融政策と財政政策の対応の規模とスピードについては、まだわからないと筆者は考えます。

中国が“日本化”した場合、世界経済への影響は…

別途、「中国の不動産市況が大幅に調整し、中国が日本化しても世界経済には影響はない」との考えもあります。

 

その主たる論拠は「日本の不動産バブル崩壊は、世界経済に影響がほとんどなかった」というものでしょう。当時の日本も現在の中国も経常収支や貿易収支が黒字であることから、「食べるよりもつくるほうが多く、世界経済の需要はおもにアメリカしだい」といった考え方に基づいていると思われます。

 

しかし、当然ながら中国にも需要はあり、[図表5]に示すとおり、世界のGDPに占める日本と米国、中国それぞれの輸入金額の割合を示すと、現在の中国の輸入需要は、2007年の米国に比肩します。

 

[図表5]世界全体のGDPに占める輸入金額の割合
[図表5]世界全体のGDPに占める輸入金額の割合

 

危機の進行スピードにもよりますが、仮に、「中国の日本化」が生じるならば、世界経済への影響は少なく見積もるべきではないように思えます。

 

[図表6]日米中と世界のGDP成長率
[図表6]日米中と世界のGDP成長率

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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【参考文献】
・Ray Dalio (2018,2022) “Principles for Navigating Big Debt Crises”, Bridgewater Associates, Avid Reader Press / Simon & Schuster

・西野智彦 (2019) 『平成金融史-バブル崩壊からアベノミクスまで』中公新書、中央公論社

・リチャード・クー (2013) 『バランスシート不況下の世界経済』徳間書店

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