(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代といわれる昨今。60歳で定年を迎えるとすると、残りは40年。セカンドライフはゆっくり過ごす、再雇用で働く、起業するなど、どのような選択をするかという点は悩みどころです。本記事では、Sさんの事例とともに、失敗しないためのセカンドライフの考え方について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の代表の三藤桂子氏が解説します。

必ず成功する…信じて始めたラーメン店経営

現役時代はお互いが仕事に追われ、それぞれの生活スタイルに過度な干渉をすることなく過ごしてきました。お互いに共通することは「ラーメン好き」という点です。

 

夫のSさんは数々の店を研究し、自身で開発した究極の出汁を生み出していました。もともと研究職という仕事柄もあってか、一つの物事に改良・改善していくことに、没頭していく性分でした。

 

ラーメン店を大きくしていきたいという気持ちではなく、自分の作るラーメンを誰かが美味しいと言ってくれる――そんな喜びを長く続けることができたらSさんにとっては成功を意味します。Sさん独自の研究の結果、結局は味のいい店が成否を決めるという理論のもと、セカンドライフは間違いなく成功する、そんな自信がありました。

 

――いよいよ開店。現役時代の同僚や学生時代の友人などが応援に来店し、まずまずの客足に満足です。

 

半年後、Sさんの読みどおり、出汁の味が口コミで広がり、売上も安定してきました。ですが、妻は不機嫌な様子。聞いたところ意外な返答が……。

 

店では夫が厨房で、妻は接客が主な分担。夫はこれまで趣味で調理をしていたものの、一度に数人前のラーメンを作るとなると、不慣れなことも多かったようです。さらに、接客業の経験のない夫は、お客さんがいないところで愚痴や不満を言うこともあり、時には口調が荒くなることも。妻の接客態度にもあれやこれやと注文をつけてくるのです。

 

妻は仕事に慣れて落ち着いてくれば、穏やかになると思い、辛抱することにしました。

 

1年後、やはり出汁の味に定評がついたことで、常連客が増えてきました。しかし夫婦のあいだには一緒に仕事をしていても会話が少なくなっていきました。連携がうまく取れずオーダーの順番を間違え、お客さんからクレームが来ることも……。客足は増えてもお店全体の雰囲気は暗くなっていったのです。

 

――そして2年後、妻の不満は頂点に。

 

離婚を切り出した妻

妻は現役時代、大手デパート販売員として培った接客力に自信があったにもかかわらず、夫が難癖ばかりつけてきたことが一番許せなかったそうです。プライドが傷ついたのでしょう。

 

セカンドライフをこのまま共に続けていくことに不安が募っていった妻は、ついに離婚まで考えはじめました。夫に離婚する際は、退職時の貯金5,000万円の半分を請求すると言い出しました。

 

すでに開業前に2,000万円を使っていたため、このままではSさんはラーメン店を閉店することも老後破産に陥る可能性も否めません。

セカンドライフに失敗しないために…

Sさん夫婦が破綻せずやり直すにはどうすればよかったのでしょうか?

 

Sさん夫婦のように、現役世代とまったく違う職種で起業や独立開業する場合、資金繰りはもちろんのこと、精神的に余裕が持てないことも多々あります。仕事に慣れない、余裕がないのは、妻も同じです。にもかかわらず一方的な態度をとることは、離婚の危機、老後破産と開業したことが夫婦間の危機に発展し、セカンドライフの大失敗につながります。

 

もともとは「自分の作るラーメンを誰かが美味しいと言ってくれる」、Sさんはそこに一番の喜びを感じていたはずです。一番身近な妻は初めから「夫の作るラーメンが世界で一番好き」、そう言ってくれていました。

 

妻にも問題はありました。もしかすると夫からの接客に対する意見は、初めのうちは接客の素人としての的確な助言だったかもしれません。しかし、聞く耳を持つことはできませんでした。

 

夫の思いやりのなさが、妻の高慢なプライドが、2人の関係を悪化させていってしまいました。

 

シニアは人生経験や知識・実績の豊富な夫婦ですから、コミュニケーションをとりながら、相手を思いやる気持ちが大切です。やってみようにも難しいことかもしれませんが、結局は普段からの些細なコミュニケーションの積み重ねが失敗しない秘訣かもしれません。

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表

 

 

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