降ってわいた「ひいおばあちゃんの相続問題」…都内の超一等地、ひ孫世代×8人の虎視眈々〈面識なし&駆け引きあり〉【税理士が解説】

降ってわいた「ひいおばあちゃんの相続問題」…都内の超一等地、ひ孫世代×8人の虎視眈々〈面識なし&駆け引きあり〉【税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日本には、相続登記せずに放置された土地が多数存在します。それらは代替わりするごとに相続人が増え、いざ相続登記しようと思っても、収拾がつかないケースが多々あります。そういった事態を回避するため、2024年から相続登記が義務化されますが、では、実際に相続人が増えてしまった場合、乗り切る方法はあるのでしょうか。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

会ったこともない親族からの、突然の連絡

相談者:先生、土地の相続トラブルについて相談に乗ってください。

 

先生:どうされましたか?

 

相談者:はい。じつは、私が生まれてすぐに亡くなった母の相続の件なのです。先日、私と兄のところに、母の親族と名乗る人から電話があり、書類への署名と押印を求められています。

 

先生:お母様のご親族はどのような方で、どのような手続きだと聞いていますか?

 

相談者:その方は私のいとこで、母の弟の長男だそうです。彼の話では、母の祖母名義の土地があり、それをいとこがひとりで相続するため、その旨を記載した遺産分割協議書に私と兄の署名と押印がほしいというのです。電話で「司法書士の先生から、書類が送られてくる」と聞かされ、先日それを受け取りました。写真もあります。

 

※写真はイメージです。
※写真はイメージです。

 

先生:こっ、これは…。ずいぶん狭いですね。家を建てるにも、駐車場にするにも厳しそうですから、隣地のオーナーに買ってもらうしかないでしょうね。

 

相談者:5坪しかありません。しかし、ここは港区六本木の駅前なんです。

 

先生:それはすごい! 六本木なら、実勢価格では坪単価1,000万円ぐらいですかね。5坪でも5,000万円くらいの価値があるかもしれませんね。

 

相談者:そうですよね。だから、すべていとこに取得させるのはもったいないかなと。私も相続人のひとりなのですから、売った代金を少し分けてもらいたいと思ったんです。

相続人8人、遺産分割協議書に「全員の署名&押印」が必要で…

先生:遺産分割協議の内容を説明してもらえますか?

 

相談者:母の祖母名義の土地は相続登記が行われておらず、今回、その登記を行いたいそうです。家系図ではこのような感じです。

 

[図表2]相談者の家系図

 

先生:なるほど。これは戸籍謄本を集めるのが大変だったでしょうね。お母様は土地の名義人の方の孫のおひとりで、孫世代の方4人ともすでに他界されています。その結果、曾孫世代の8人が相続人になるわけですね。

 

相談者:相続人8人、全員が遺産分割協議書に署名と押印することになるのでしょうか?

 

先生:そうですね。そうしなければ登記できません。

 

相談者:しかし、これまで会ったことのない親戚で、どこに住んでいるのかもわからないのに、どうやって連絡するのですか?

 

先生:それは戸籍の附票を見ればわかります。

 

相談者:戸籍の附票とはなんでしょうか?

 

先生:戸籍の附票とは、本籍地の市町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類で、その戸籍に入ってから現在に至るまでの住所が記録されるものです。

 

相談者:なるほど、ありがとうございます。いとこは自分ひとりで土地を取得しようとしているようなのですが、私も相続する権利を主張して問題ありませんよね?

 

先生:もちろん、法定相続人として権利を持っています。しかし、会ったこともない相続人全員で話し合いしなければいけないので、その点が大変ですね。また、遺産分割の現実的な落とし所としては、土地を売却して、その代金を8人で均等に分けることになるでしょう。

面倒な交渉を回避する「相続分の譲渡」というテクニック

相談者:話し合いがまとまるといいのですが、心配です。いとこは不動産会社とすでに取引の交渉をしているらしく、早く相続放棄するよう、強く迫られています。ほかの相続人の状況はわかりませんが、実際に売却するまでに何年もかかるかもしれません。そうなると、かなり厄介な交渉ごとになりそうです。

 

相談者:それなら、いとこの方に有償で「相続分の譲渡」をおこなえばいいでしょう。そうすれば遺産分割協議に参加する必要がなくなりますよ。

 

相談者:相続分の譲渡とは、なんでしょうか?

 

先生:相続人の地位と相続分を他人に譲渡することで、有償でも無償でも構いません。これは譲受人と譲渡人の間の合意で成立するもので、ほかの相続人の同意は必要としません。今回のケースであれば、法定相続分は8分の1ですから、いとこの方にそれを譲渡すればいいでしょう。仮に土地を5,000万円と評価するのであれば、その8分の1の625万円で買ってもらえばよいでしょうね。

 

[図表3]相続分の譲渡のイメージ

 

相談者:なるほど…。

 

先生:相続登記していないと、孫や曾孫世代にツケが回ってくることになりますね。しかし今後は、相続後3年以内に相続登記をすることが法律で義務付けられましたので、このようなケースは減っていくことになると思われます。

 

相談者:〈ひいおばあちゃん〉のツケが巡り巡ってきたということですね…。兄とも相談して、いとこに提案してみます。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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