(※写真はイメージです/PIXTA)

「小規模宅地特例」とは、亡くなった人が自宅として使っていた土地を、配偶者か、亡くなった方と同居していた親族が相続した場合、土地の評価額を8割引きにできるという制度のことです。これにより相続税の大幅な圧縮が期待できます。今回は相続した宅地において「小規模宅地等特例」の適用が認められなかった事例について、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、同氏が解説します。

証拠1 亡くなった被相続人が生活する拠点として住んでいたかどうか

・生活の拠点の基礎です。上掲の事情、背景、実態そのものが証拠となります。

 

・他方で、本件マンションの面積や間取りは、丁が一人で居住するには不必要なほど広く、電気もその使用量に比べて契約容量が極めて大きい。

 

家具や電化製品も世帯用の製品が購入されており、丁は運転免許を持たないにもかかわらず、駐車場契約を締結している。したがって、本件マンションの入居目的が、専ら丁一人が仕入れ等の便宜のために居住するためのものであったかどうかについては疑問がある。

※ここは旧税制を意識しています。

 

証拠2 水道高熱費の利用状況や周囲に住所として告知をしたかどうか

・生活の拠点ですから水道光熱費のチェックは入ります。ゆえに水道光熱費の利用状況を確認したうえで、その使用実績を記録しておきます。

 

また、丁が本件マンションを住所として届け出た金融機関や取引先はなく、郵便物は小城市家屋に届けられており、本件マンションに届く郵便物はダイレクトメールの類に過ぎず(甲8、9)、知人らに本件マンションで生活していると知らせた形跡もなく、入退院を繰り返していた時期や平成14年8月以降は最後まで小城市家屋で療養していたものである。

 

証拠3 住民票などの書類だけではなく実際に住んでいた形跡が伝えられるかどうか

住民登録された場所が生活の本拠とされる住所(民22)とは限定されないことは明らかです。実態と異なっていれば実態基準(実質基準)にしたがって社会通念=常識=経験則で判断します。

 

そのためにも実態要件を満たす上掲の水道光熱費やもし自動車利用であれば駐車場使用の有無、自動車を利用した形跡等々の常識的な生活形跡が必要となります。

 

このように住民票等々の外的要件を揃えたとしても、実態要件がなければ証拠として意味がないという典型事例になります。そして当該実態、すなわち、生活の本拠であれば通常利用されていたものについて過去からの累積があればあるほど証拠力は高くなります。

 

【判決】以上のとおりの本件マンションの利用状況等からすれば、丁が病気等の事情から利用できなかったことを考慮しても、丁は本件マンションにおいてほとんど生活していなかったのであり、その利用も散発的であって、被控訴人らが主張する小城市家屋と本件マンションの両方に居住する生活スタイルというものも確立するに至っておらず、本件マンションが生活の拠点として使用されていたとは認められない

 

【参照】下記、地方税との兼ね合いについても納税者は主張しています

 

被控訴人らは、地方税法施行規則7条の2の15が地方税法施行令36条における「日常生活の用に供しないもの」の定義を「毎月1日以上の居住(括弧内省略)の用に供する家屋又はその部分以外の家屋又はその部分」としていることから、本件マンションは毎月1日以上の居住の用に供する家屋又はその部分に該当すると主張するが、同じ税体系の法律とはいえ、地方税法と相続税法ではその立法趣旨及び目的が異なるから、地方税法における用語の定義が相続税法ひいては本件特例にも妥当するとはいえない

 

また、前記認定事実によれば丁は毎月宿泊していたものではなく、毎月1日以上居住の用に供していたとも認められないから、被控訴人らの主張は理由がない。したがって、本件宅地は、本件特例の「居住の用に供されていた」宅地に当たるとは認められない

 

 

伊藤 俊一

税理士

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※本連載は、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より一部を抜粋し、再編集したものです。

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 3相続編

税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方 3相続編

伊藤 俊一

ぎょうせい

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