国税が下した「重加算税」の判断は本当に正しかったのか?
あくまでも、週刊誌の記者に答えた住職の話にうそがない前提であることをお断りしておくが、国税が賦課した重加算税の判断は本当に正しいのだろうか。
前述のように収益事業をしていない寺院は、年間8,000万円以下の収入なら法人税の申告義務がない。兼務していた寺の年間収入が1寺あたり150万円前後であるなら、所轄庁に対して「役員名簿」と「財産目録」を提出するだけで済む。
だからと言って帳簿を付けなくてよいとは言わないが、もらったお布施をそのまま預金口座に入金して管理していただけなら、帳簿をつけなかったこともうなずける。
もちろん、個人口座に入金していたことは完全な誤りではあるが、住職は兼務寺のお布施を本寺の会計と混同させないように個人口座で管理しただけであって、そこに仮装・隠ぺい行為があるようには思えない。
しかも、住職の話どおり、個人口座から兼務寺の建て替え費用や災害時の修繕費を支出していたのなら、口座の動きを確認すればそれらの事実と符合するだろう。
そうであったなら、お布施を兼務寺の収入から除外して『隠し給与』として所得税の課税を免れ、個人口座で貯めこんだとの考えにはなり得ない。国税の調査はどこまで踏み込んだのだろうか。
寺院会計の実情に詳しい筆者の目に映る「隠し給与」事案の真相は、古い体質のまま記帳義務を怠り、兼務寺のお布施を個人口座で管理していた住職に対し、国税が一般企業並みの複式簿記による帳簿管理をあてはめ、お布施を売上除外と認定。個人口座で管理する資金を「隠し給与」とみなして重加算税を賦課した構図だ。
繰り返しになるが、お布施を帳簿に記載してさえいれば税金はかからなかった。少なくとも、お布施に税金がかかると考える住職はひとりとしていない。
平成7年最高裁判決は「過少申告をすることを意図し、その意図を外部からも覗いうる特段の行動」をしている場合に重加算税の賦課要件が満たされるとしている。
国税は、住職の過少申告の意図をどこに見出したのだろうか。
上田 二郎
僧侶/税理士
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