今時の専業主婦世帯のプロファイル-夫婦のいる勤労者世帯の3割へ減少、約半数が55歳以上

今時の専業主婦世帯のプロファイル-夫婦のいる勤労者世帯の3割へ減少、約半数が55歳以上
(写真はイメージです/PIXTA)

「専業主婦」の夫は本当に高収入? 税制や社会保障制度は、すでに勤労者世帯の3割まで減少した少数派の専業主婦世帯を前提とするものが根強く存在し、現状との乖離は広がっています。本稿では従来のイメージと大きくかけ離れてしまった現在の「専業主婦」の実像を、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が解説します。

5―夫の年収階級別に見た特徴~専業主婦世帯は再雇用等で300万円未満層が約3割へ増加

夫婦のいる世帯の夫の年収分布を見ると、2002年では、いずれの世帯でも年収500万円~699万円を中心に分布しており、専業主婦世帯では高収入層や低収入層が、共働き世帯では中間層がわずかに多い傾向はあるものの、世帯による大きな違いは見られない(図表6)。

 

ところで、日本では古くから「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という価値観が存在することで、専業主婦世帯の夫は高年収である(夫が高年収であると妻は非就業)という印象もあるのかもしれない。一方で2002年のデータを見ると、その図式は成り立っていないことが分かる。

 

なお、既出レポートで見た通り2、夫が高収入であるほど、妻の就業率は低下する傾向はあるのだが、近年では、夫の収入の多寡によらず働く妻が増えているために、夫の年収が1,500万円以上でも妻の約6割は就業している。つまり、夫が高年収でも妻は就業している世帯の方が多い。

 

2022年でも同様に、いずれの世帯でも夫の年収は年収500万円~699万円を中心に分布している。また、共働き世帯については2002年とおおむね変わらない(各年収階級の変化幅は1%程度)。

 

一方、専業主婦世帯については、300万円未満の比較的低年収層が増え(2002年20.4%→2022年27.9%で+7.5%pt)、1,000万円以上の高年収層がやや増えることで(同9.8%→同12.2%で+2.5%pt)、300万円~1,000万円未満の中間層が減っている(同69.8%→同59.8%で▲10.0%pt)。この背景には、3節で見たように、専業主婦世帯が共働き世帯と比べて高齢化していることで、定年後の再雇用といった雇用形態で働く夫が増えていることなどがあげられる。

 

 

 

*2:久我尚子「パワーカップル世帯の動向~コロナ禍でも増加、夫の年収1500万円以上でも妻の過半数は就労」、ニッセイ基礎研レポート(2023/7/13)

6―おわりに~多様化する世帯構造、個人の選択に中立な税制・社会保障制度の実現を

本稿では、政府統計を用いて、減少傾向にある専業主婦世帯の特徴を捉えた。その結果、近年の政府の「女性の活躍推進」政策等の効果によって、仕事と家庭の両立環境の整備が進み、共働き世帯が増えたことで、20年ほど前は夫婦のいる勤労者世帯の6割強を占めていた専業主婦世帯が、足元では約3割にまで減っている状況が確認された。また、就業希望がある専業主婦が全て就業できた場合は約4分の1にまで減る可能性も見て取れた。

 

また、妻の年齢階級に注目したところ、これまで出産・育児期における仕事と家庭の両立に悩んできた若い年代ほど働く妻が増えて専業主婦が減っていること(足元では30歳前後の世帯の約4分の1が専業主婦で7割以上が共働き)、少子高齢化や未婚化の進行、男性の就業期間の延長等によって、専業主婦世帯は共働き世帯と比べて高齢化が進み、専業主婦世帯の約半数は55歳以上が占めるようになっていた。

 

なお、両立環境の整備が進み、就業希望を叶える妻が増えたことで、専業主婦の就業希望率は全ての年代で低下していた。一方で、未だ若いほど就業希望率は高く(30歳前後では約4分の1)、希望がありながらも求職していない理由の大半は「出産・育児のため」であり、依然として両立の困難さから就業をあきらめている女性が少なからず存在する様子も見て取れた。また、出産・育児期にキャリアが中断されることは、中高年期に仕事を得にくい状況にもつながっている様子がうかがえた。

 

専業主婦世帯が減り、共働き世帯が増えていることは広く認識されているだろうが、あらためてデータで見ると、専業主婦世帯は予想以上に少なく(共働き世帯の半分に満たない)、予想以上に高齢化している(約半数が子育てを終えた年代)という事実に意外な印象を受けた方も多いのではないか。

 

消費市場においては、世帯構造の変化や消費者の要望をきめ細かく捉えた上で商品やサービスを提供することが企業業績に直結するため、消費者のプロファイリングは丁寧に、かつ素早く実行される。

 

一方で、日本の税制や社会保障制度においては、所得税の配偶者控除や第3号被保険者などに見られるように、すでに少数派となっている専業主婦世帯を前提とするものが根強く存在し、現状との乖離は広がっている。また、共働き世帯とはいっても、いわゆる「106万円の壁」(一定規模以上の企業等の雇用者で社会保険料の自己負担が生じ始める収入)などに見られるように、就業希望があっても就業時間の調整をしている女性は少なくない。

 

また、専業主婦世帯や共働き世帯は夫婦世帯が前提だが、近年、未婚者や高齢単身者の増加によって単身世帯は総世帯の約3割を占めて増加傾向にあり、存在感を高めている(厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」)。

 

このような中で内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」では、「働きたい女性が就業調整を意識しなくて済む仕組み等を構築する観点から、税制や社会保障制度等について、総合的な取組を進める」としている。すでに働き方や家族形成に対する価値観が多様化し、世帯構造も多様化している中では、個人の選択に対して中立的な税制や社会保障制度の実現に向けて、一層スピード感を持った改革が求められるようになっている。

 

2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」

 

■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ

 

■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】

 

■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年8月22日に公開したレポートを転載したものです。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録