相続税の納付等には多額の「現金」が必要
これまでに何度も申し上げてきたように、相続にはとにかくキャッシュが必要となります。相続に向けて子らがコツコツと資金を貯めていければいいですが、たいていの人は毎日の生活でいっぱいで、納税資金や代償分割(遺産の少ない子に多い子から支払うお金)の資金を貯めるだけの余裕はないものです。しかも、自分が努力して貯めたお金は自分や家族のために使いたいと思うのが人情で、国に納めたり他の相続人に渡したりするのは惜しいと感じるのではないでしょうか。
そんなときに保険金が支払われたら、とても気が楽になるはずです。親がつくってくれたお金を納税や代償金にスライドさせればいいだけです。自分の懐から出ていくお金は惜しくても、思いがけず手に入ったお金をスライドさせるだけなら抵抗感は少なくて済むと思うのです。
母親だからこそ可能な「公平な遺産分割」
遺産分割は、ひとつのケーキを複数の相続人で分けるのに似ています。母親の経験がある人なら、子どもたちにケーキを切り分けたことがおありでしょう。私も息子が2人いますが、彼らが幼い頃に誕生日やクリスマスで、ホールケーキを分けたときのことを思い出します。息子たちは「どっちのケーキが大きいか」を瞬時に見極めていました。
相続ではケーキがお金や不動産、出資持分などの財産に置き換わっただけです。大人になってもやっぱり、人より大きいほうやおいしそうなほうがほしくなる気持ちは変わりません。だからこそ、片寄った分け方をすると遺産争いが起きてしまいます。
そんなとき、母親だからこそ、子どもたちに公平な気持ちで切り分けてあげられるのではないでしょうか。私が「相続対策は奥様がおやりになるべき」と申し上げるのは、母親ならばこの気持ちをもって遺産分割を考えられるからです。
先ほど、特別受益の話をしました。子どもたちに学費や結婚資金、住宅資金、育児費用などでいろいろとお金を渡して、相続のときに不満が出ないようにしていたとします。それでも相続のときには、もらったことを子がすっかり忘れていたり、「そんな昔のこと」と片づけられたりしてしまうことがあります。
今、目の前にケーキがあって分けようとしているときに、「あなたには1週間前に、お兄ちゃんに内緒でプリンをあげたでしょ。だから、今回はケーキを少なくするね」と言われても、その子にしてみれば「今、目の前にあるケーキ」がほしいのです。もう食べてなくなってしまったプリンのことをもち出されても、「そんなの知らないよ」と言いたくなる気持ちはよくわかります。きっと私がプリンをもらった弟の立場だったら、そう言うと思います。誰しも心はやっぱり子どものままなのかもしれません。
そういう場面で、ふと横を見ると板チョコが数枚積んであったら、どうでしょうか。
「ケーキは小さいけど、チョコレートをもらえるなら、まあいいか」と我慢できるのではないでしょうか。「ケーキよりチョコのほうが好き」と言う子もいるかもしれません。
そのチョコにあたるのが、生命保険金です。少なくもらう子の横に現金の山を積んであげられれば、「まあ、これでOKにしよう」と思ってくれやすくなるでしょう。